女の性と飢餓。其の一
◇混乱期の父母の死◇
小学校6年生のとき、私は叔母の家へ引き取られた。
母親が死んだからである。
私の父親は、私が物心つく前に既にあの世へと旅立っていた。
だから、母が死んだ事で、一人っ子の私は、母の妹にあたる叔母だけが
唯一の身寄りだったのである。
私の父親は、大きな商家の一人息子であった。
父親の父親、即ち私の祖父がお人好しで、何人もの商売人の保証人になった挙句、
借金だらけになって、首を吊ってしまったそうだ。そのため私の父親は、母親と二人して
祖父の借金返済の為に頑張ったのだという。
「お父さんはね、上の学校に行きたかったのよ。でも、お金が無くて行けなかったの」
そう言って、母親はしばしば、私に古いアルバムを貼り付けた
父親の写真を見せて呉れたものである。
「ホラこの写真。おまえのお父さんは賢そうでしょう。
小学校でずーっと級長さんだったのよ」
母が見せて呉れた写真の中に数枚の父の小学校の頃の写真があった。
私の記憶にも残っていない父親は、絣の着物を着て学生帽を被り、
数人の学童達と写真に納まっていた。父が6年生の時の写真だと言う。
祖母と一緒の写真は、大きな澄んだ眼をまっすぐこちらに向けて、
口を真一文字に結んでいる父の顔は、確かに賢そうであった。
父親は学問が好きだったのである。だから、独学の為に使った沢山の辞書の類が、
父が死んでからもずっと書棚に並んで残っていた。
私は父の顔を憶えては居なかったけれど、父の残したそんな辞書の類を
暇さえあれば眺めていたので、年齢の割には変なことを沢山知っていた。
「ねぇ、月経って何のこと?」
なんとなく、分かっていながら、母親にそんな質問をして困らせた覚えがある。
「そんなこと、いまは知らなくてもいいのよ。そのうちに分かるから・・・」
母は裁縫の手を休めずに顔を私から背けたまま答えてくれた。
母は手先が器用で良く近所の人に頼まれて着物を縫っていた。
小学校6年生のとき、私は叔母の家へ引き取られた。
母親が死んだからである。
私の父親は、私が物心つく前に既にあの世へと旅立っていた。
だから、母が死んだ事で、一人っ子の私は、母の妹にあたる叔母だけが
唯一の身寄りだったのである。
私の父親は、大きな商家の一人息子であった。
父親の父親、即ち私の祖父がお人好しで、何人もの商売人の保証人になった挙句、
借金だらけになって、首を吊ってしまったそうだ。そのため私の父親は、母親と二人して
祖父の借金返済の為に頑張ったのだという。
「お父さんはね、上の学校に行きたかったのよ。でも、お金が無くて行けなかったの」
そう言って、母親はしばしば、私に古いアルバムを貼り付けた
父親の写真を見せて呉れたものである。
「ホラこの写真。おまえのお父さんは賢そうでしょう。
小学校でずーっと級長さんだったのよ」
母が見せて呉れた写真の中に数枚の父の小学校の頃の写真があった。
私の記憶にも残っていない父親は、絣の着物を着て学生帽を被り、
数人の学童達と写真に納まっていた。父が6年生の時の写真だと言う。
祖母と一緒の写真は、大きな澄んだ眼をまっすぐこちらに向けて、
口を真一文字に結んでいる父の顔は、確かに賢そうであった。
父親は学問が好きだったのである。だから、独学の為に使った沢山の辞書の類が、
父が死んでからもずっと書棚に並んで残っていた。
私は父の顔を憶えては居なかったけれど、父の残したそんな辞書の類を
暇さえあれば眺めていたので、年齢の割には変なことを沢山知っていた。
「ねぇ、月経って何のこと?」
なんとなく、分かっていながら、母親にそんな質問をして困らせた覚えがある。
「そんなこと、いまは知らなくてもいいのよ。そのうちに分かるから・・・」
母は裁縫の手を休めずに顔を私から背けたまま答えてくれた。
母は手先が器用で良く近所の人に頼まれて着物を縫っていた。
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- 14歳年下の女。シリーズⅢ其の六 (2012/06/23)
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- 女の性と飢餓。其の二 (2011/08/10)
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女の性と飢餓。其の二
◇戦後の男ひでり◇
しばらくは、そんな毎日が続いた。
「ここは、空襲が無いだけマシね」
叔母はそんな風に言っていた。夜中になると真っ暗な中で梟が鳴き、
冷たい川の水で顔を洗わなければ成らなかったけれど、
真夜中に叩き起こされて防空頭巾を被せられ、
防空壕へ逃げなければ成らぬと言う生活からは、
まるで無縁であったのだ。
そんなある日、私は夜中にふと目をさました。
横に寝ている叔母の体が小刻みに動いている。
「ねぇ、何してるの・・・どうしたの?」
私が声をだして訊ねると、叔母の体の動きが止まった。
「ううん、別に・・・。大丈夫よ、眠りなさい」
背中を向けている叔母に、後ろからしがみつき、その乳房を揉んで、
私は眠ってしまったが、後年になってこの時の事を思い出すと、
ちょつと悲しくなってくる。叔母は自慰をしていたのであろう。
朝早くに目を覚ますと、先を丸く削った大根が落ちていた。
叔母はそれを自分の中に入れ、一人で女の体の寂しさを
紛らわせていたらしいのである。
其の当時、叔母に男性経験が有ったのかどうかは分からない。
しかし、叔母の性器が、すでに太い大根を迎え入れる状態に
なっていた事だけは確かだったようだ。
ひょっとすると叔母は、自分自身の手で処女膜を破ったのかもしれない。
いずれにしても太い大根は、途中で何ヶ所も陰肉の圧力で締め付けられたらしい
跡が残ってへこんでいた。水気が少し失せ、締め付けられて折れ、
或いはひび割れた様な状態になっていた。
「なんだァ、この大根・・・」私がそう言って大根をつまみ上げると、
眼を覚ました叔母が大慌てでそれを取り上げ、
「いやねぇ、ネズミがひいてきたんだわ」
と、二つに折って台所の隅に投げ捨てたのを憶えている。
しばらくは、そんな毎日が続いた。
「ここは、空襲が無いだけマシね」
叔母はそんな風に言っていた。夜中になると真っ暗な中で梟が鳴き、
冷たい川の水で顔を洗わなければ成らなかったけれど、
真夜中に叩き起こされて防空頭巾を被せられ、
防空壕へ逃げなければ成らぬと言う生活からは、
まるで無縁であったのだ。
そんなある日、私は夜中にふと目をさました。
横に寝ている叔母の体が小刻みに動いている。
「ねぇ、何してるの・・・どうしたの?」
私が声をだして訊ねると、叔母の体の動きが止まった。
「ううん、別に・・・。大丈夫よ、眠りなさい」
背中を向けている叔母に、後ろからしがみつき、その乳房を揉んで、
私は眠ってしまったが、後年になってこの時の事を思い出すと、
ちょつと悲しくなってくる。叔母は自慰をしていたのであろう。
朝早くに目を覚ますと、先を丸く削った大根が落ちていた。
叔母はそれを自分の中に入れ、一人で女の体の寂しさを
紛らわせていたらしいのである。
其の当時、叔母に男性経験が有ったのかどうかは分からない。
しかし、叔母の性器が、すでに太い大根を迎え入れる状態に
なっていた事だけは確かだったようだ。
ひょっとすると叔母は、自分自身の手で処女膜を破ったのかもしれない。
いずれにしても太い大根は、途中で何ヶ所も陰肉の圧力で締め付けられたらしい
跡が残ってへこんでいた。水気が少し失せ、締め付けられて折れ、
或いはひび割れた様な状態になっていた。
「なんだァ、この大根・・・」私がそう言って大根をつまみ上げると、
眼を覚ました叔母が大慌てでそれを取り上げ、
「いやねぇ、ネズミがひいてきたんだわ」
と、二つに折って台所の隅に投げ捨てたのを憶えている。
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- 女の性と飢餓。其の一 (2011/08/10)
- 女の性と飢餓。其の二 (2011/08/10)
- 女の性と飢餓。其の三 (2011/08/10)
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女の性と飢餓。其の三
◇初めての性交◇
「マァちゃん・・・」
うわ言のようにそう叫んで、叔母が喪服の裾を割ると、そのまま私の上に跨ってきた。
叔母は下着を着けていなかった。
「ああ、したいの、したいの、したいのよォ・・・許してネ、許してネ・・・」
そういい続けながら、叔母は私のペニスの根元をもってペニスの向きを変えると、
それを自分の女陰にあてがっていた。私は呆気に取られながらも、
すべてを叔母のなすがままに任せていた。
叔母の股間が、小水を垂れ流し時のようにズブ濡れだなと感じたとき、
亀頭にヌルッとした感触が有り、次にペニスが生温かい柔肉で包まれた。
私のペニスが叔母の中に侵入したのである。
「あひッ!」
叔母が、引き攣ったような声をあげた。
「ひいい・・・」
私にとっても初めての体験であったが、叔母にとっても初めての、性交であったのだ。
「あっ、あっ、あーッ!」
叔母が体を仰け反らせて叫んだ。
其の途端に、ズズズと私のペニスは根元まで叔母の中に入り込んでいた。
「あう、あうッ、あうッ」
叔母が訳の判らぬ嗚咽を洩らしながら腰を動かすと、
叔母の陰唇がビトッと私のペニスの付け根に密着し、まるで、私のペニスを
叔母の中に吸い込むような感じで、柔肉でくるみ込んで来たのである。
私は叔母にしがみつき、本能的に叔母の着物の前を捲くっていた。
黒い喪服の胸が開き、白い乳房が飛び出してきた。
「マァちゃん。吸って、吸ってェ」
叔母に言われるまま私は、飛び出してきた白い乳房に吸い付いていた。
すると、寝る時に吸い付いたのとは違って、激しい欲情がこみ上げて来たのである。
「オバさん・・・」
そう言いながら私は、自分の方からも腰を動かして、叔母の子宮を突き上げ
膣の中を捏ねくり回していた。
「マァちゃん・・・」
うわ言のようにそう叫んで、叔母が喪服の裾を割ると、そのまま私の上に跨ってきた。
叔母は下着を着けていなかった。
「ああ、したいの、したいの、したいのよォ・・・許してネ、許してネ・・・」
そういい続けながら、叔母は私のペニスの根元をもってペニスの向きを変えると、
それを自分の女陰にあてがっていた。私は呆気に取られながらも、
すべてを叔母のなすがままに任せていた。
叔母の股間が、小水を垂れ流し時のようにズブ濡れだなと感じたとき、
亀頭にヌルッとした感触が有り、次にペニスが生温かい柔肉で包まれた。
私のペニスが叔母の中に侵入したのである。
「あひッ!」
叔母が、引き攣ったような声をあげた。
「ひいい・・・」
私にとっても初めての体験であったが、叔母にとっても初めての、性交であったのだ。
「あっ、あっ、あーッ!」
叔母が体を仰け反らせて叫んだ。
其の途端に、ズズズと私のペニスは根元まで叔母の中に入り込んでいた。
「あう、あうッ、あうッ」
叔母が訳の判らぬ嗚咽を洩らしながら腰を動かすと、
叔母の陰唇がビトッと私のペニスの付け根に密着し、まるで、私のペニスを
叔母の中に吸い込むような感じで、柔肉でくるみ込んで来たのである。
私は叔母にしがみつき、本能的に叔母の着物の前を捲くっていた。
黒い喪服の胸が開き、白い乳房が飛び出してきた。
「マァちゃん。吸って、吸ってェ」
叔母に言われるまま私は、飛び出してきた白い乳房に吸い付いていた。
すると、寝る時に吸い付いたのとは違って、激しい欲情がこみ上げて来たのである。
「オバさん・・・」
そう言いながら私は、自分の方からも腰を動かして、叔母の子宮を突き上げ
膣の中を捏ねくり回していた。
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- 女の性と飢餓。其の二 (2011/08/10)
- 女の性と飢餓。其の三 (2011/08/10)
- 女の性と飢餓。其の四 (2011/08/10)
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女の性と飢餓。其の四
◇叔母の浮気現場◇
私と叔母とは、夜毎性交するのが当たり前の事になり、
畑仕事で疲れた日など、私はとりわけ叔母の体が欲しくなった。
叔母の方も、もう大根を削って挿入する必要も無くなり、
自慰で一人、こっそりと私に隠れて欲望を処理する必要も無くなっていた。
私たちは、はっきりと大人の男と女であった。
こんな有様だったから、叔母が村の男とデキていると知った時にはショックであった。
兵隊にとられて村には殆ど男が居なかったが、どう言う訳か、青年団の団長を
している男性だけは、村のはずれに一人住まいで暮らしており、
兵役とも無関係であったようである。
小嶋という言うその男性は、都会から疎開して来た私を、結構可愛がって呉れていた。
若いのに、何故一人で暮らしているのかは分からなかったが、
兵役にも行かず、一人で山の中へ入っては炭を焼いていた。
其の男がいつの間にか叔母とデキていたのである。
私は肉体的にはすっかり一人前の男になっていたので、ひとりで鍬をかついで
山の畠へ出掛ける事が多くなっていた。
住まいに隣接する畠を借りていたので、その賃借料を払う代わりに、親戚の畑を
耕しに出掛けていたのである。叔母はその仕事をみんな私に任せていた。
しかし本当は、わたしを留守にさせる為であったらしいのだ。
山の畑は豆を蒔く畑であった。予定よりも早く畝(うね)が出来てしまったのが、
そもそもの事件の発端であった。
「今日中に蒔いちゃうよ。マァちゃん、納屋から豆を取って来てくれよ。
オラァ川から水を汲んでおくからな」
親戚の爺さんにそう言われ、私は走って山道を降りて行った。
そして小嶋の家の前を通りかかったとき、
その家の中に叔母の姿を見つけたのである。
ショックであった。叔母は着物を着たまま小嶋の上に跨っていたが、
その体の動きから、叔母が何をしているのかは私には直ぐに分かったからである。
私は物陰に身を隠しながら、叔母の姿が見える縁側へ忍んで行った。
私と叔母とは、夜毎性交するのが当たり前の事になり、
畑仕事で疲れた日など、私はとりわけ叔母の体が欲しくなった。
叔母の方も、もう大根を削って挿入する必要も無くなり、
自慰で一人、こっそりと私に隠れて欲望を処理する必要も無くなっていた。
私たちは、はっきりと大人の男と女であった。
こんな有様だったから、叔母が村の男とデキていると知った時にはショックであった。
兵隊にとられて村には殆ど男が居なかったが、どう言う訳か、青年団の団長を
している男性だけは、村のはずれに一人住まいで暮らしており、
兵役とも無関係であったようである。
小嶋という言うその男性は、都会から疎開して来た私を、結構可愛がって呉れていた。
若いのに、何故一人で暮らしているのかは分からなかったが、
兵役にも行かず、一人で山の中へ入っては炭を焼いていた。
其の男がいつの間にか叔母とデキていたのである。
私は肉体的にはすっかり一人前の男になっていたので、ひとりで鍬をかついで
山の畠へ出掛ける事が多くなっていた。
住まいに隣接する畠を借りていたので、その賃借料を払う代わりに、親戚の畑を
耕しに出掛けていたのである。叔母はその仕事をみんな私に任せていた。
しかし本当は、わたしを留守にさせる為であったらしいのだ。
山の畑は豆を蒔く畑であった。予定よりも早く畝(うね)が出来てしまったのが、
そもそもの事件の発端であった。
「今日中に蒔いちゃうよ。マァちゃん、納屋から豆を取って来てくれよ。
オラァ川から水を汲んでおくからな」
親戚の爺さんにそう言われ、私は走って山道を降りて行った。
そして小嶋の家の前を通りかかったとき、
その家の中に叔母の姿を見つけたのである。
ショックであった。叔母は着物を着たまま小嶋の上に跨っていたが、
その体の動きから、叔母が何をしているのかは私には直ぐに分かったからである。
私は物陰に身を隠しながら、叔母の姿が見える縁側へ忍んで行った。
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- 女の性と飢餓。其の五 (2011/08/10)
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女の性と飢餓。其の五
◇ニギリ飯一個の欲情◇
都会に出る汽車の中で、私は一人の女と知り合った。
向かいの席に座った女で、美人だったが栄養失調で痩せていた。
「師範学校は出たのですけど・・・」
と、年上のその女性が言った。
たとえ師範学校を出ていても、飢えには勝てなかったのだ。
米びつを開けてニギリ飯を食う私を、周囲の全員が眺めていた。もちろんその女性も、である。
ニギリ飯を食うなどと言う贅沢は、めったな人間の遣れる事ではなかった。
周囲からは唾を呑み込む音が聞こえて来る様であった。
「どうぞ、これを・・・」
私は米びつを開けてニギリ飯を一つ掴み出すと、その女性の前にニュッと差し出したのである。
「あ、ありがとうございます」
その女性は、両手でニギリ飯を受け取ると、それを頭の上に捧げて深々と礼をした。
そして其の侭の姿勢で、
「ありがとうございます。ありがとうございます」
と、十回ほど繰り返した。
周囲の目が女性の手に乗ったニギリ飯を追っていた。
そして、さんざん礼を言い尽くしてから、彼女はゆっくりとニギリ飯を食べ始めた。
あたりでまた一斉にゴクリと唾を呑み込む音が聞こえた。
「よければ、晩ごはんの分もあげますよ」
私は、そう彼女の耳に囁いていた。
彼女は途中の駅で降りる積もりだったのかも知れない。しかし、晩御飯のオニギリの方が、
彼女にとっては魅力的だったのだろう。私が名古屋駅で列車を降りると言うと、
彼女の方から私について来て良いかと尋ねたのである。私が大柄だったので、
彼女は私がまだ中学生だとは思わなかったらしい。
すでに終戦から一年経った夏であった。
終戦の後、二学期から学校が始まったけれど、
叔母一人に畑仕事をさせておくわけにもいかなかったので、茄子や胡瓜を作っているうちに、
いつの間にか学校へは行かなくなっていた。その代わり、便所の中に落とし紙として置いてある
婦人雑誌のきれっぱし等を読んでいたので、社会勉強の方は怠りなかった。
大きな都会へ出れば、何とか遣っていけると思えた。そんな機会を狙っていたので、
叔母のヘソクリのタンス貯金を掠めて家出しようと思ったのは大方一年掛かりの計画であった。
都会に出る汽車の中で、私は一人の女と知り合った。
向かいの席に座った女で、美人だったが栄養失調で痩せていた。
「師範学校は出たのですけど・・・」
と、年上のその女性が言った。
たとえ師範学校を出ていても、飢えには勝てなかったのだ。
米びつを開けてニギリ飯を食う私を、周囲の全員が眺めていた。もちろんその女性も、である。
ニギリ飯を食うなどと言う贅沢は、めったな人間の遣れる事ではなかった。
周囲からは唾を呑み込む音が聞こえて来る様であった。
「どうぞ、これを・・・」
私は米びつを開けてニギリ飯を一つ掴み出すと、その女性の前にニュッと差し出したのである。
「あ、ありがとうございます」
その女性は、両手でニギリ飯を受け取ると、それを頭の上に捧げて深々と礼をした。
そして其の侭の姿勢で、
「ありがとうございます。ありがとうございます」
と、十回ほど繰り返した。
周囲の目が女性の手に乗ったニギリ飯を追っていた。
そして、さんざん礼を言い尽くしてから、彼女はゆっくりとニギリ飯を食べ始めた。
あたりでまた一斉にゴクリと唾を呑み込む音が聞こえた。
「よければ、晩ごはんの分もあげますよ」
私は、そう彼女の耳に囁いていた。
彼女は途中の駅で降りる積もりだったのかも知れない。しかし、晩御飯のオニギリの方が、
彼女にとっては魅力的だったのだろう。私が名古屋駅で列車を降りると言うと、
彼女の方から私について来て良いかと尋ねたのである。私が大柄だったので、
彼女は私がまだ中学生だとは思わなかったらしい。
すでに終戦から一年経った夏であった。
終戦の後、二学期から学校が始まったけれど、
叔母一人に畑仕事をさせておくわけにもいかなかったので、茄子や胡瓜を作っているうちに、
いつの間にか学校へは行かなくなっていた。その代わり、便所の中に落とし紙として置いてある
婦人雑誌のきれっぱし等を読んでいたので、社会勉強の方は怠りなかった。
大きな都会へ出れば、何とか遣っていけると思えた。そんな機会を狙っていたので、
叔母のヘソクリのタンス貯金を掠めて家出しようと思ったのは大方一年掛かりの計画であった。
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プロフィール
Author:アヤメ草
FC2ブログへようこそ!管理人の
アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。
私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。
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