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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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小説・秋の夜話。其の三

秋の夜長6-1
手や足は毎日の畑仕事で、痛ましく日焼けして赤味を帯びては居るけれども、肌の色はくっきりと白く、
人妻とは言え、まだその事を知らない処女の其れであるから、腰の締まりも確りとして居る。
殊に臍下の慎ましい女の象徴は唯影としか見えず。好色漢の垂涎を唆らずには居ないであろう。
是だけの美しい妻を持ちながら、指一本触れる事の出来ない身の不運もさることながら、
如何して是が甚太郎の好奇の目を引かないで居ようか。人知れず覗き見の出来る節穴は、屋内の側にも沢山ある。
例えば隣の農機具置場等に、用事有りげに潜り込んで居れば、つい目の先に、
有りの侭の事々が手に取る様に覗かれよう。風呂場に松薪の小口を揃えたりして、
せっせと並べる一方、こそこそと農機具置場に潜り込んで、礼子の浴巻を脱ぐ所から、
足の裏を拭き終るまでの、一部始終を覗いて居るような痴漢の姿を、増蔵はまざまざと脳裏に描く事が出来た。

礼子はもとより何も気が付かない。そう言う細かい事には気も留めず、又気付いても屈託しない性分である。
赤々と燃え盛る釜の前で、心地よく浴巻を広げて、蚤を捜す事の出来る様になった便利さを、
喜んで居るだけの事で有ろう。湯から上がった後も、厚い胸の前を暫く風に曝し、再び浴巻を被い、もんぺを穿く。

但しあたら玉の肌が、麻の葉の湯巻に包まれたり、野良着やもんぺの姿に戻ったりしたのでは、
そこらにありふれた百姓女の行水を見るのと大差ない。いっそ是が粋な湯巻で被われ、
又派手な大柄の浴衣等着たら、いかに痴漢を悩殺する事であろう・・・。

増蔵はその様な妄想を広げる一方、幸か不幸か、それを実行に移す事が出来るのだった。
或る日農家の仕立物に浴衣を頼まれた序でに、女物の浴衣地を一反工面して、
それでこっそり礼子の浴衣を仕立てて見た。
浴衣や湯巻き位、礼子は自分でも縫えない事は無かったが、商売柄仕立物は一切夫任せで有った。
改めて夫から渡された新しい浴衣と、派手な浅黄の湯巻きを礼子は何の不思議とも思わず、
唯嬉しそうに、「ありがとう」と言って受け取っただけで有った。
そしてその次の日からは、礼子は背負籠の中に其の新しい浴衣を入れて、湯殿に持ち運び、
汗臭い野良着は浴衣と入れ替えに、背負籠の中に捨てるのだった。

此の様な事が有って間もなくであった。滅多に来た事も無い甚太郎の女房が、
或る夜慌ただしく裸足のままで、増蔵の居る離れへ駆け込んで来た。
「増蔵さん、大変です」
「強盗かね?」
「いいえ」

真っ青になって、怒りと驚きに震えて居る痴呆の女房(お兼)の様子が、只事でないと思われた。
増蔵は取るものも取り敢えず、杖に縋って、よろめきながら、お兼と一緒に裏の藪の中に潜り込んで行った。
木立を抜けると、遥か遠方の陸稲畑の中に、浴衣姿の男女が立って涼んで居るのが見えた。
それはまさしく甚太郎と礼子であった。
湯上りの後甚太郎に誘われて、礼子は畑の中まで涼みに出たものらしく、
其れを偶々痴呆の女房に発見されたのである。

「あゝ、あれですか。お兼さん、悪かったね。後で礼子に良く言って置きます。勘弁して下さい」
と、増蔵は女房のお兼に詫びを言った。お兼はそれで簡単に機嫌を直して引き上げたが、
痴呆でも悋気だけは強いらしく、それが人事ならず痛ましく思われた。
彼とてもこの際決して喜んで居る訳ではなかった。
 
秋の夜長2-9
増蔵は二つの白い浴衣姿を眺めた時に、克ってない嫉妬の昂ぶりを覚えた。しかしそれは、
かく有る事を願って、故意にもたらした被害妄想の結果で、妄想が実現して自分に実害が加わる事によって、
それとは反対に、甚だしい満足を感じられると言った風のものだった。
現にその証拠に、増蔵は、吾知らず前を捲くって立小便をしたのであるが、身の丈よりも遥か遠くの方に、
土を搔き立てる音がした。放尿がかって覚えぬ程、のびのびと遠くまで届くのは、
彼の逸物が増大して、思うさま迸りを弾き飛ばして居るからに他ならぬ。

この不思議な興奮状態は尚続いた。その夜増蔵は礼子が床の中に入ると、仕立物を礼子の枕元に運んで、
仕事を続ける風を装いながら、じっと礼子の傍に這い寄って行った。
「礼子。お前この頃になって、子供が欲しいとは思わないかい・・・」
と増蔵は言った。
「この頃でなくても、何時でも欲しいと思うわ」
と礼子が言った。
「お前が俺と一緒になった時は十八だったが、もう彼是十年近くになる。
 世間の夫婦なら二人ぐらいの子が或る頃だ」
「そりゃそうだわね。女が嫁入りして十年にもなれば、大抵、皆子持ちになって居るわ」
「だから、お前だって子が出来ない筈はない」
「そうよ。あたし何処も身体に悪いとこないもの」
「その健康な身体が何よりの幸せだ。よしんば俺はこんな身体でもな・・・礼子。
 変な事を言うようだが、お前いっそ子を生む気はないか・・・どうせ将来養子を迎える位なら、
 お前が自分で生むのが良い。俺はどっちにしても同じだが、丸きりの他人の子より、
 お前の生んだ子であれば育てる張り合いが有ると言うものさ・・・」

「馬鹿ねぇ、あんた・・・あたしはあんたの女房じゃないの。誰の子を生むのよ」
「だからさ一時亭主の替わりをする男を探すのよ・・・」
「そんな男絶対にない・・・」
「まるまる亭主を替えられちゃあ、世間の手前、俺の顔が立たないが、
 一度や二度の事なら、俺は見て見ない振りをする。子供の為だ。他の男と寝て見なよ」
「そんな男居ないってば、あたしには・・・」
「頼んで、ちょっと寝て貰え」
「誰にさ」
「甚太郎さんに・・・」
「いやだあ・・・」

礼子は見る見る赤くなった。増蔵はそ知らぬ顔で、
「あいつは実直そうな男だから、女のお前が事をわけて頼めば、多分相談に乗って呉れるだろう。
 俺の差し金だと言っちゃ、美人局みたいで、気味悪がってうんとは言うまいから、
 何処までも俺は知らない事にして、ソラ、亭主には内緒の、世間にありふれた間男に成って貰うのさ」
「いやだあ。亭主公認の間男なんて・・・あんた正気なの」
秋の夜長6-2
「間男は認めても、その替わり俺に隠し事をしちゃいけないぜ。おれも共々に心配して居る事なんだから・・・
 正直のところ、ここへ疎開して来てから、俺はお前に食わせて貰ってる様なものだ。
 夫婦の仲ではそれも当たり前かも知れないけれども、俺は亭主らしい事は何一つして上げられなかった。
 世間のどんな道楽亭主でも、女房にとっては、亭主は他人には云われぬ好い所がある。
 俺にはそれが全く出来ないんだ。俺はそれが心苦しい。いっそ片輪者同志ならそれもいいが、
 お前は何処も身体に悪い処は無いんだから・・・」
「いいのよ。そんなこと・・・あんたが好きなんだから・・・」

「いや。よくない。お前が何も言わないから、良い事にして居るが、それじゃ俺の冥利が恐ろしいから、
 こんな事を言って居るんだ。礼子、判ったか・・・よう」
礼子は何も言わなかったが、つと蒲団に顔を埋めたので、納得の意のある事がほぼ察せられた。
「じゃ、お前から甚太郎さんによく頼んでみなよ」
「だって、あたし、恥ずかしくてそんな事・・・言えないわ」
「なぁに。男は助平だから、二つ返事だ。それでなくとも人の女房にちょっかいを出したがるのが男さ」

「そうかしら・・・窮屈なのよ。あの人は」
「そりゃお前が用心して居るからだろう」
「若しそんなことを事をして、母屋の女将さんやご両親に知られたら、怒りゃしないかしら」
「お兼さんは、大丈夫さぁ。怒鳴り込んで来たら俺が巧くたしなめてやるよ。
 是は単なる浮気をそそのかしてるんじゃない、不妊に悩む俺たち夫婦を助けて貰う事なんだよ」
「でも、彼は堅物だから・・・あの人そんな事するかしら・・・」
「固かったら、軟らかくするのさ。そこが女の手練手管と言うものさ」

このように先回りして、鎌を入れて見た所、礼子は未だ甚太郎の手も付かず潔白である事が判ったが、
いささか薬が効き過ぎたようでもあった。自分にしてもそんな事まで言う積りは無かったが、
つい変な興味の赴くままにしちくどく、礼子を口説いたのである。
間男して欲しいのか、欲しくないのか、煎じ詰めると自身でも判らなくなってしまうが、
心とは不思議な事を言うものである。唯思うだけならよいが、やがて実行に移されて行くのであった。
  1. 疎開先の思い出
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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