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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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小説・秋の夜話。其の十

043.jpg
礼子は夫が縁側に入り込むと言うので如何なる事かと肝を潰したが、案外無事に片付いたので
ホッとした。そして、甚太郎が早く帰って行って呉れる事をのみ心の中で念じて居た。
そうなったら、サッサと帰って呉れれば良いと思っていたが、この男は何時も思い切りが悪く、
又座ったら尻が長いので、とうとうこう言う間の悪い場面に成って仕舞ったのである。
どちらを見ても男と言うものは底意地が悪く、礼子はつくづく情けなくなった。

甚太郎は、礼子が終始おどおどして、落着かぬさまで居るのが物足りず、実はもう目的も達し、
用事は済んで居るのでは有ったが、何となく後味が悪く、帰り兼ねて居たのだった。
女郎買いと同じ様に、漠然ともう少しと思って居たのである。
その相の手の、礼子がアンゴラの檻を縁側に入れ、其の事に付いては、甚太郎は何の疑いも
持たなかったが、たとえ家畜にせよ、今は何か窮屈さえ感じられて来るのであった。

「礼子さん。もっと灯りを明るくしねえか」
甚太郎は胡散臭そうに言った。
「もっと明るくしなよ。まるでお通夜の晩に泊まったようだ。
 おらあ、礼子さんをもっと良く見て見てえんだがな」
明るくすれば、何か互いに目につく事があるのであろう。甚太郎の目にも、
又夫の目にも・・・彼は障子の穴から覗いて居るのに違いないのだった。

「明るくするのは嫌。それだけは嫌です」
礼子は必死に成って反対した。何事も言いなり次第に成ってい居た礼子にしては、
珍しく強情だったので、女の本性に触れた様な気がして、甚太郎は又新しい興味を催した。
「よう。おら、こんな薄ぼんやりして居るのは、
お化けが出そうで、却って気味がわるいよ・・・」
「しゃぁ、一層のこと消したら・・・」
「うん消した方が、情が湧くべえ」
「知らないのよ。情が湧いたって・・・」

甚太郎の手が襟の辺りを探って来る、男の手を気にしながら、礼子は身体を起こして、
電灯を消した。途端に、ほっと気安いものが感じられたが、同時に、
一枚しか羽織って居ない夜着を剥ぎ取られて居た。

「礼子さん。これを、おらに貸してくんな。なに、そのうちにけえすだから・・・」
「いやだよ。そんなもの貸して、おかみさんに見つかったら大変だわ」
「なに、大丈夫だ。おら、懐に入れて、誰にも見せやしねえ」
「いやらしい・・・よしなさいよ」
「序に襦袢も借りるべえか」

それが女を裸体にする口実だと知った時、礼子は思わず赤くなった。
「いやだ、あたし・・・それじやぁ丸裸になるじゃないの・・・」
「いいだ、いいだ。やるには至極いいだ」
「いやだ。わたし・・・もう、それは沢山。かんにんして・・・ねぇ。後生だから・・・」
「肌を触れ合うとは、これだんべえ・・・ほら、おれもこの通り裸だ・・・捲くる世話もねえ」
途端に礼子は肉体的にはそれを求めていても、精神的には身を切られるような、
悲痛な衝動を与えられた。
 
45d7ab16.jpg
コトコトコトコト・・・アンゴラ兎が暴れて居るとのみ思っていたその音は、実は男女の動作の撓む音で、
戸障子のかすかに揺れる音であった。それが地震の水平動のようにミシミシと軋み出す頃、
礼子は枕を外して、かすれ声で言った。
「旦那さん、そんならさっきの様に、今一度お願い申します」
種付けと言う言う事が、せめてもの夫への申し訳であった。

「よし来た。今度はいい具合だわい・・・礼子さん、いい気持ちだんべえな。
 盛んに鼻息が出るじゃねえか」
「旦那さん、お願い申します」
「ああ、いいとも・・・お前がよくなったら、おらも出すから・・・
 濃い奴をよ・・・いいか合図しなよ。きっと孕むだ」

ややあって、礼子は悲痛な声を絞っていた。
「ああ、もう、お願いします」
「いいか、もう、いいのか」
「はい・・・」
「よし」
「あーっ、もう・・・」
「よし・・・直ぐゆくべえ・・・」
「死ぬよ・・・あたしはもう・・・死にそう・・・」

やがて甚太郎は、着衣もそこそこ、礼子に送られながら、廊下のくぐり戸をあけて、
其処から直ぐ敷石の上に降りた。蔵前のタタキの上は、裸足でひょいひょいと渡って、
闇でも慣れて居る母屋の廂の下に入ると、其処から手探りで雨戸をこじ開けた。

母屋の部屋々々には、だらしなく電灯がつけっぱなしに成って居た。
井の字型の廊下に座敷が並び、部屋数は合わせて九つもあるが、その真中の一室が、
甚太郎夫妻と子供の寝る部屋で臥床の一端に主人の寝床が設けてあった。
甚太郎は普段でも宵から此処に来て寝ることは滅多になかった。

何時も囲炉裏に薪をくべながら、雑誌や新聞を読み耽り、そのままうたた寝をしてしまう。
うたた寝をしても、誰も夜着を掛けて呉れる者も居ないので、やがて深夜の冷えに
独りでに目が覚め、冷えた茶碗の湯を啜りながら、寝床に引き取るといった様な事が多かった。 

甚太郎が部屋の襖をあける、むっとする息いきれの中に、女房をはじめ六人の子供達が寝て居た。
寝相が悪くて、どれがどれの尻とも判らず入り交じった中に、女房は口を開けたまま、
臍も胸部も丸出しにして寝て居た。甚太郎は近づいて、女房の前を被せてやり、
又こっそり襖を閉めて廊下に出た。

中廊下を伝わって土間に下りると、その向こう側に囲炉裏が切ってある。囲炉裏に座って、
先ず炉の火を掻き出し、それに薪をさしくべると、細い桑の枯れ枝は直ぐパッと燃えついた。
煙草入れを出そうとして、懐に手を入れた時、礼子の下着を持って来てしまって居るのに
気がついて、甚太郎はビックリした。女の下着を失敬して来る等、まるで痴漢めいた仕業で
吾ながら顔が赤くなるが、実の処を言えば、神も照覧あれ、女に心を許させる閨房の手段
だったのである。しかし、こうして目の前に、優しい浅黄色の布を広げて眺めて居ると、
礼子への恋慕の情が昂ぶるのであった。
秋の夜長2-2
甚太郎は炉辺に寝そべったまま、頻りに下着を弄んで居た。女房の半分もないような、
礼子の小さな、ナリ形が、甚太郎には可愛くてたまらないのだつた。女の肌の匂いも、
今日始めて嗅がせて貰った。「又ね」と一言囁いて別れ際の、甘えた掠れ声も忘れ難い。
其の声はもう二度と聞く事も有るまいが、あの匂いは未だ此処に残って居る。

「ああ、礼子さん。おらはこの匂いに惚れちまっただ。
 ああ、礼子さんお前の肌の匂いに・・・」
下着の匂いを飽きず嗅いで居るうちに、後の疲れが出たか、甚太郎は次第に
眠気を覚えた。そして夢うつつの中にも下着をそっと懐に隠した。、

礼子は甚太郎を送り出してしまうと、増蔵の居る障子の処に駆け寄って、
「寒かったでしよう。さあさあ早くお入んなさい」
と言った。そして障子に手を掛け、辛うじて立ち上がる増蔵を助け起こして、
床の上へと連れて行くのだった。

「お前さん。お腹の具合はどう?温石でも入れる?」
「うん寒くてやり切れない。温めてくれ」
「いいとも。夜着を被って寝て居な。あたし、コンロで直ぐ火を起こして来るから・・・」
「火はいらない。お前の肌で温めてくれ・・・」
「そう。じやぁ、ちょっと待ってね。あたし、直して来るから・・・」

礼子は押入れから行李を引き出して、洗濯物の肌着の中から、薄紅梅の小さく畳んだ
布を取り出すと、さっと広げて腰に巻きつけた。貧しい生活に似つかわしくない、
洒落た色の湯巻を幾つか持って居るのも、元はと言えば、増蔵が仕掛けた無邪気な
謀略であった。それが偶々是程までに人を悩ますに至ったのである。

礼子は元々色事には無頓着な女であったから、己の所業がどれ程男を悩ませ、
又夫を傷つけたかを知らない。傷つけられれば傷つけられる程、夫の逸物が増大
する等の奇現象を、不思議とも、痛ましいとも感じないのである。

礼子は夜具の中にもぐり込みながら、
「さあ、お前さん。こっちをお向きな。
お前さん。さっきはドキドキと動悸が激しかったけど、もう治まったかい。
お前さんのマラはもう縮んじまったでしようね。
あんまりあたしが浮気するから、愛想が尽きたのかも知れない・・・
でも、あたし本心から浮気して居るんじゃないのよ」

「そりゃ判ってるよ。俺が勧めた事だもの・・・
 そして良く判ったよ。子を作るのは、いかに骨の折れるものだって事が・・・
 まるで死の苦しみなんだね」
「いやな人。あたしちっとも覚えて居ないわ」
「お前。死ぬ死ぬてなこと、言ってたじゃないか」
「何言ってるの。死ぬほど苦しかったけど・・・もう忘れちまった・・・
 まだ痛むの。お腹は?」
  1. 疎開先の思い出
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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