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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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初夜で判った新妻の性的魅力。其の一

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街は浮足立ったクリスマスの喧騒で、いつになく賑わっていた。
息子の信義に誘われて、久しぶりに私は居酒屋の縄暖簾をくぐってみたが、
行き場所を失った男たちが、何と多い事か・・・。
一塊、二塊と、サラリーマンたちが肩を寄せ合ってテーブルを囲んでいるかと思えば、
カウンターにだらしなく突っ伏して、酔い潰れている者もいる。

いずれも家庭でクリスマスを祝うことに、無縁な男たちなのだろう。
私達親子も、また、そうした一組だった。

信義は一昨年の春、嫁の和美と協議離婚した。子供が二人いたが、
二人とも自立していたから、全く問題なく偶に信義と連絡は取っているようだ。

私の妻の仁子は、信義の結婚も知らずに早逝している。嫌な咳をするなと、
私は気づいていた。しかし当時、私は船から降りたばかりで、
遊ぶことに夢中で放っておきっぱなしだった。もう少し早く病院に連れていけば、
助かったかもしれない。妻は洗面器一杯の吐血をして、入院してから一か月と持たずに、
末期の肺癌でこの世を去ったのである。

「親父、珍しい肴があるよ」
信義は黒板の品書きを目で示した。私は目を細めて黒板の文字を追った。
長年の不摂生で患った糖尿病のため、視力は極度に衰えていた。
「何がある?」
「ホッケの刺身だってさ・・・食べてみるかい」
「ホッケか・・・刺身で出せる店が、まだあったんだな。
 板さん、一つ造ってみてくれるかい」
「ヘイ、よろこんで!」

板前はポンと威勢よく手を叩くと、冷蔵庫から、山吹色をしたホッケを出して、
目の前の俎板の上に載せた。ホッケは、ほんの数時間前まで確かに生きていた。
そう確信できる立派な魚体だった。

「北海道から航空便で叔父に直送してもらったやつです。今朝、
 捕れたばかりなんで頬っぺたを落とさないようにして下さいよ」
「北海道は江差かい?」
「いえ、函館の近くにある、上磯という所です。ご存じすか?」
「行ったことはないが、そうか、まだ獲れているんだな」
「僅かですが・・・」

板前は捌いたホッケを、大皿に盛って私の目の前に置いた。
切り身は瑞々しい薄桃色をしている。口を酒で濯いで、一切れ頬張ってみた。
身に鮎魚女(あいなめ)ほどの締りはないが、口にジワリと甘みが広がり、
スッキリとした滋味が舌に絡みつく。長い事忘れていた、ホッケの旨さだった。

「親父どうだい?」
「旨い。お前も食ってみなッ」
「本当に旨そうに食うんだな。ホッケなんて猫跨ぎだって昔は言ってたくせに・・・」 
「そう思えるほど、いい時代だったんだ」
そう言うなり、もう一切れ、私は口に放り込んだ。

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私、木元 典雄は昭和13年生まれの76歳であります。
地元の工業高校電気通信科を卒業して、東京に本社のある海運会社に就職した。
内航船の通信員として5年務めたが、海運不況で本社勤務を命じられた。が、
地上勤務になじめず会社を辞めて郷里に帰ってきた。昭和36年の事である。

如何しても海の生活が忘れられず地元の海運会社での働き口を探していた。
そんな秋の事。私は酔いの残った目で、港に出て荒れすさぶ午後の海を眺めていた。
小型漁船が遠くで木の葉の様に、波間で揺さぶられている。
漁船は港に入りたがっているようだが、エンジンでも故障したのか、
同じ場所に止まったまま、一向に近づいてくる様子はない。
其の内に舳先に立った男が布切れを振っている姿が確認できた。

漁船に何か異常が起きているのは確かだった。
無線機など積んでいない時代だ。布切れを振ることで、救助を求めているのである。

私は港の側に有る、漁師小屋にいる男たちに急を知らせた。
男たちの動きは実に迅速だった。自分が何をしなければならないのか、
体で感じている動きだ。男たちはたちまち二艘の漁船に分乗すると、
途惑いもなく波頭が牙をむく荒れた海に向かったのである。

私はその様を肌に粟立てて見守っていた。血が沸騰して漲り、
全身がカーッと熱くなるのを感じた。

ここにも男たちの戦場がある。いつも何気なく見過ごしてきた漁師たちの背中が、
無言のうちに語りかけているような気がした。

二艘の漁船は、間もなく故障した船を曳航して港に戻ってきた。
何事も無かったかのように、男たちは漁師小屋に引き上げていく。
そして、達磨ストーブを囲みながら、気負いもなく淡々と酒を酌み交わし始めた。

私の中の迷いは、もうなかった。私は漁師小屋に踏み込んだ。
この村で生まれ育ちながら、漁師小屋に入ったのはその時が初めてだった。
男たちの視線が、突き刺さってくる。
「船頭さんは?」と、私は男たちに声を掛けた。
「オウ、オレだ」と、すぐに胴間声が返ってきた。
いかにも船頭と呼ばれるにふさわしい、中年の大男だ。
男は名前を本間順平と名乗った。
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「漁師になりたいんだ」
「ホオ、内航船の無線屋が漁師に?まだ酔っ払っているのか?」
その直後、本間はニタリと笑った。男たちの哄笑が私を包んだ。
本間と他の男たちは私が海運会社を辞めて、
故郷に帰って来たことを知っているようだった。

「漁に命を懸けたい」と、私は毅然と言い放った。
「やめておけ、粋がってそう言う奴に限って、早死にする。
 死人を見るのは、ご免だ。まあ、酒でも飲めッ」

本間は丼茶碗を私に突き付けてきた。それを受け取って、
なみなみと注がれたドブロクを、男たちが好奇の目で見守る中、
一気に呷った。甘酸っぱいむせるような匂いが、喉元にこみ上げてくる。
胃袋が火傷しそうな、強い酒だ。私は一滴残さず飲み干してから、
改めて丼茶碗にドブロクを注ぎ入り、本間に返した。

「ドブは後に成って効く。何杯飲めるかな」
本間は薄ら笑いを浮かべると、小さな盃の酒を飲むかのように、
スルスルと飲み干してしまった。

「毎晩飲んだくれているそうだな。まだいけるだろうッ」
再び満々とドブロクを注ぐと、本間は丼茶碗を返した。
私と本間は男たちの輪の中で、二杯、三杯とドブロクを飲み交わした。
つまらない意地の張り合いだが、
漁師に成るための入社試験だと受け止めていた。

負ける訳にはいかなかった。
私は注がれるまま、六杯目を飲んだ事までは覚えている。
が、五杯目頃には、男たちの声が妙に耳障りになり、
全ての物が歪んで見えはじめていた。
気が付いたのは、深夜に成ってからだった。
寒さで目を覚ましたのである。
  1. 妻を語る
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アヤメ草

Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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