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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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儚く消えた年上の女。其のニ

◇同伴喫茶
儚く2-1
空はまだまだ明るいが、みゆき通りはすっかり夜のムードになっていた。
この通りをうろつく若者、みゆき族が発生するのは二年後の昭和三十九年頃からで、
まだこの頃は、トリス・バーやニッカ・バーが軒を並べる大人の飲食街だった。

私は人込みを縫って、西銀座通りの角にある、地球儀型のネオン看板を
屋上にした森永ビルに歩く。その一階のゴルフショップの前が、
史子との待ち合わせ場所だった。

ゴルフ店が定休日なのは承知のうえ。網アルミのシャッターの内、
ゴルフバッグやクラブが並ぶ暗いショーウインドーのガラスを鏡にして、
私は自分の姿を点検した。

髪は短め、散髪したばかり。
白地に細縞の夏ジャケットに白ワイシャツ、紺のニットタイ。
ズボンは裾が細めの濃紺で、靴は渋谷駅前の靴磨きに磨かせて、
ピカピカ輝く黒革のスリップオン。まあまあだ。

六時二十五分。眺めた腕時計から顔を上げたとき、森永ビルの角から、
淡い藤色のシャーベット・トーンのワンピースを着けた女性が駆け寄ってきた。

史子だった。
「あら、またせちゃった?」
私は慌てて首を振った。今来たばかり、と口の中で呟く。
何故か揚がってしまって、声が出なくなっていた。
制服を脱いだ彼女は、まるで別人のように変貌していたのだ。

手にしたバッグと、履いているパンプスもパール加工の濃い藤色。
口紅の色も、パールトーンのピンクに変えている。
そんなトータルファッションが凄く似合っていて、私は何か圧倒されていた。

「なんだ、待たせちゃ悪いと思って、走ってきて、損しちゃった!」
そう笑う声も若々しい。それに最新の流行色を身に纏っているせいだろうか、
史子は仕草も馴れ馴れしく、私の腕に軽く腕を絡めてくる。
そして先んじて歩き出す。

気が付けば、みゆき通りを歩く銀ブラ女性の殆どが、
シャーベット・トーンの淡い色彩の服を着ていた。

 
儚く2-2
「ふふ、思い出してもおかしい・・・」歩きながら、史子がクスクス笑う。
「あの日あの後でね、矢吹君と同じ様に、部長が私をおでんに誘ってくれたのよ、
 あんまり偶然だったから、おかしくって・・・」
身を捩り、忍び笑う史子の胸が私の腕に弾んだ。
その柔らかい感触が、私には焼きゴテを当てられたように熱かった。
そして、それ以上に熱い嫉妬の炎が、私の胸に、むらむらと燃え上がる。

部長とは、八階にあるビルの管理会社の彼女の上司。私も姿だけは知っていた。
「じゃあ、もうおでん食べに行ったんだ?」
「行かないわよ、あの日は別の用事があったし、君が先約でしょ?
 それに、あの部長はイヤらしくて、嫌いなの!」
「そうなの・・・」と私は本音でホッとした。

私から見れば堂々たる中年紳士の彼は、恋敵としては荷が重すぎた。
「そうよ、嫌い!」と史子はツンと顎先を伸ばした。
その顔の位置が私の肩の少し上で、口紅以外の化粧が薄いのが良く判る。
「それにね、部長が嫌いなのは私だけじゃないのよ、
 うちのビルの女の子達皆が嫌いなの、だってね・・・」
と、部長を肴にした彼女の悪口が饒舌に続き、私は楽しく相槌を打つだけで、
七丁目にある「お多幸」まで、あっと言う間に歩いていった。

私の年齢にすれば高い、「お多幸」のおでんは美味しかった。
中年客の注目を浴びた史子のお陰だろう。
日本酒も進んで、千五百円ほどの勘定を済ませて外に出たとき、
私も史子もほろ酔い気分になっていた。

まだ時間は八時を過ぎたばかり。
別れ難くて、私は彼女をトリス・バーに誘った。
「もう飲めないわ、また今度にして・・・」と簡単に断られたが、
「ねぇ、駅まで送ってくれる?少し酔ってるの・・・」
史子は甘えた口調で言い、絡めた私の腕に、酔った風情で柔らかな胸の
膨らみを押し付けてくる。私の鼻の下は伸びる一方だ。

彼女の自宅は日暮里だと言う。国電を使うなら新橋が近い。
しかし、私は有楽町駅を選んだ。酔い醒ましに歩くなら距離も良いし、
巧くすれば、そこから間近い、皇居の堀端や日比谷公園の夜の
デートスポットに誘えるかも知れない。
昭和の喫茶店
しかし、西銀座の交差点を渡り、日劇の横を通る時、史子が急に酔いが回った
ように足元をふらつかせ、口を押さえた。
「ごめんね、何か気持ち悪くなった・・・」

すぐ前が有楽町駅である。行き交う人の流れも激しい。こんな場所で
シャーベット・トーンも美しい女性に、ゲロを吐かせる訳にはいかない。
見回した私の眼に、明かりも目映いパチンコ屋の隣にある、
喫茶店の立ち看板が飛び込んで来た。

私は史子の肩を抱いて、その喫茶店に入った。店内はほぼ満席状態で、
「お二階へどうぞ!」と入口レジの男に言われた私は、史子を支えて階段を昇った。

途中でハッとした。二階が同伴席なのに気付いたのだ。
だが仕方がない、同伴席ならトイレも使いやすいだろう、
と高い背もたれが左右に並ぶ通路を奥に向かった。

突き当たりにトイレの表示。それを指して、「ここで待っているから・・・」
と通路横の座席も指さした。頷いた史子が足早にトイレに向かう。
私は背もたれの合間の、狭い二人掛けの席に腰を降ろした。

アベック専用の同伴席は、扉が無い個室のようなものだ。
照明は、両側の壁に並ぶ小さな灯火と、通路の床に埋めた非常灯だけ。
座席の足元や、通路を挟んだ隣の席は闇に沈んでいる。
そこは空席だったが、一人座った私の耳には、キスやペッティングを交わしている
周囲の客達の忍びやかな囁き、喘ぎ声に呻き声が淫靡に聞こえてくる。

私の胸はドキドキ高鳴る。トイレから戻ってきて、こんな卑猥な喫茶店と知った
史子はどうするだろう。怒るか、それとも、もしかして周囲のアベック同様に、
私と愛を語らってくれるのか・・・?

悩んでいるうちに、ペンライトを手にしたボーイが来て、私はアイスクリームと
レモンソーダを注文した。どちらも史子の酔い覚まし用だったが、
私も喉が渇いていた。

十数分後、トイレの扉が開いた。音で悟った私は通路に出て、
恥かしそうに笑う彼女を奥に座らせる。彼女はソーダ水を選び、
そのグラスにアイスクリームを半分乗せてやると、
「優しいのね・・・」と秘めやかな笑い声を漏らした。
  1. 銀座の恋の物語
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プロフィール

アヤメ草

Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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