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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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花の銀座で芽生えた恋。其の三

◇欲望に震える接吻
銀恋3-1
私はゴルフの練習をやめた。
典子との映画デートが叶ったその日から、
その費用と時間が惜しくなったのだ。

典子は二十七歳。私は二十歳。
姉と弟のような年齢差だが、恋する私の気持ちと、
誘えば必ず映画デートに応じてくれる典子の優しさが、
私たちの関係を恋愛にまで発展させてくれたのだ。

私はその恋に夢中になった。典子も同じく、そうだったろう。
その日以降の私と典子は、休日のたびに映画を見、
毎日のように店の閉店後には喫茶店で談笑する恋人関係になった。

だが、それはあくまでも清い交際、キスも交わさぬ姉弟のような関係でもあった。
しかし、当時はそれが普通の男女の恋愛観でもあったのだ。
絶頂期だった映画の銀幕のヒーローやヒロインは、常に忍従の恋愛期間を費やして、
破局したりハッピーエンドになったりしていたのである。

現代の若者のように、心が通じ合う前に、いきなり肉体関係を迫るような恋愛は、
女の貞淑とか貞節の言葉を重んじていた、この時代の男女の間には生じなかった。
清き純愛への憧れとその実践が、若者達の心に根強く染み付いていた時代なのである。

翌昭和三十六年。
正月三日、アメリカとキューバが国交断絶した年である。
そんな世界の動きと関係なく、私と典子はますます親しくなり、
互いの友人を紹介しあい、グループとなって新宿の歌声喫茶に行ったり、
流行っていた奥多摩ハイキングに出掛けたりしていた。

その頃の写真が数枚残っている。
私の中学生時代の男の同級生三人と、典子の友人女性一人と奥多摩の
高水三山巡りをした時のものだ。

私と典子は、山社を背景にした記念写真でも、山道を歩いているスナップでも、
常に腕を組んで寄り添っている。
私はサングラスをして、袖をまくり上げた黒い長袖シャツに、細身の黒いズボン姿。
典子は白っぽいポロシャツに、これも細身のズボン姿だった。モノクロ写真だから、
その服の色は判らないが、アルバムには私の字によるメモ書きが残っている。
[ノンちゃん(私は彼女を、その頃には愛称で呼んでいた)の、イエローのシャツの
 胸のマークが羨ましい]
そうメモした理由は覚えている。刺繍されたマークは有名ゴルフ場の物なのだが、
私が羨ましいと書いたのは、その下の典子の右の乳房に密着していたからだった。

 
銀恋3-2
季節は八月。私は其の頃まで、典子の肌に一指も触れてなかったのだ。
しかし、その写真の私は大きく大きく口を開いて笑っていたり、実に愉しそうだ。
並んでいる典子の、私の肩辺りの顔も思い出のままに、心から明るく笑っている。

その白い顔が泣き顔に歪み、小さめだが切れ長で澄んでいた目が閉じられて、
えくぼが浮かぶ唇が初めてキスの為に開かれたのは、それから約八ヶ月後の事だった。

昭和三十七年の春、四月。
私は有楽町の駅前のパチンコ店で、坂本九の「上を向いて歩こう」の歌を
頭上で聞きながら、玉を弾いていた。パチンコは隆盛していた。
だが、左の掌に乗せた玉を親指で連続的に玉入れ口に落として、
右手の親指でバネを強弱に調節して弾く作業は中々難しいものだった。
しかも立ったままだから、疲労度もかなりのものだった。

だがその夜は時間つぶしだった。
「少し遅くなるけど、今夜、有楽町駅前で・・・」
閉店前の典子からの珍しい電話の声が、
騒音の中の耳の奥で気掛かりに残り続けていた。

私と典子の恋愛は、年の差を羞恥する彼女の希望で、
会社側の誰にも知られない秘め事にしていたのだ。
だから、互いの店への電話はめったにしない約束に成って居るのだ。

九時少し前に、典子が入ってきて、私の台の受け皿を覗き込んだ。
「なんだ、勝てなかったの?」
私は無言の苦笑で、弾き疲れた親指を屈伸させた。
「たった三十分で、美人喫茶のコーヒー代並の出金さ・・・」

私は今日の昼食時間に、最近銀座で流行中で、
評判高い美人喫茶店に行って見たのだ。
確かに女優並の美人ホステスがいたが、通常五十円前後のコーヒー代が五百円、
無理やりケーキが付いて、その値段に成るクリスマス値段と同じだった。

「そのうえさ、口も利いてくれないんだぜ、馬鹿にしてるよ!」
「そんな所に行くのが悪いのよ!」
典子が笑いながら私を睨んだ。
銀恋3-3
私はその小さな鼻をちょいと突いた。
なぜか、その夜の典子には、普段にない許容性を感じたのである。
足を止めた場所は日比谷の交差点。
私達は無意識に混雑した有楽町駅を通り抜け、
何処へ行くとも決めずに喋りながら歩き続けていたのだ。

交差点の向こう側左には、黒々とした日比谷公園の樹木。
右手向こう側には、カーブする道路沿いの皇居のお堀端が、
柳の樹々の繁みを手前に静まっている。

夜来たのは初めてだが、この一帯が愛し合うアベックの聖地なのは知っていた。
「戻ろうか?」やや怯えて聞くと、典子が首を振った。
「ううん、少し歩いてみようよ・・・」
袖を通さず、薄いブルーのゴルフカーディガンを羽織った典子の腕が、
私の右腕に絡み付いた。一瞬、私はドキッとした。

腕を組んだ事はあるが、暗いとはいえ典子が地元の都会で、
こんな積極的に恋人同士の姿をするのを望んだことはない。
私達は都電の線路を横断して、道路を急ぎ足で渡り、堀端の暗闇に近付いた。
腕に絡む典子の腕が異様なほど温かい。

気のせいか呼吸も乱れて、彼女の高鳴る鼓動の音も聞こえるように感じた。
でも、それは私の心臓の音だった。

私は息を喘がせ、暗い堀端の茂みの中に足を踏み入れた。典子が足を止めた。
仰向いて私を見上げる典子の顔が、幻のように遠い街路灯の明かりに、仄白く浮かぶ。

僅かに表情を強ばらせ、私を見つめた典子の目が閉じられた。
代りに紅唇が僅かに開いて、激しい吐息を漏らした。
私は夢中で、典子の白い歯が覗く唇に口を落とした。
典子が身震いして、私の背中に腕を回してくる。
その細腕の力は強かった。私も負けずに抱き返した。

典子の息は熱かった。その息吹の中で冷たい硬質の歯は、
生き物のように踊る舌の柔らかさより甘美にしていた。
典子も私もガタガタ震え続けている。
交際が始まって約二年。耐え忍んでいた私の官能は、
その震えで燃え上がった。ベニスが異常なほど勃起した。
  1. 銀座の恋の物語
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プロフィール

アヤメ草

Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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