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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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色あせたハンカチ。其の一

~心に傷を残した日~
色あせたハンカチ01
昭和35年の秋。二十歳になったばかりの私は、旅館の布団部屋に潜り込んで
こっそりと午睡をむさぼっていた。
廊下を往き来する女中たちの足音が、何時になくバタついている。

どんなに忙しい時でも、足音を立てずに歩くことが、私の母である女将によって厳しく
躾けられて居た筈なのに、足音で眠りを中断された私は、布団部屋でサボって居た事を
棚に上げて、一言注意してやろうと不機嫌な顔をしたまま廊下に出た。

「若旦那さん、今まで何をしてたんです」
私の姿を見つけた女中頭の高木が、血相を変えてすっ飛んで来た。
そして他の客の耳を気にしたのか、私の半纏の裾を引くと、
「奈津ちゃんが、無くなったのに・・・」
と、小声だがはっきりとした口調で、私を責めるように言った。

その言葉は私から眠気を、一気に追いやってしまったばかりか、暗がりの中で
金槌で思い切り、後頭部を殴りつけられたような衝撃さえを感じさせていた。
「奈津が・・・嘘だろう。昨日はあんなに元気だったじゃないか」
「しっかりして、奈津ちゃん自殺したのよ。
 小松橋から身を投げたって電話が、少し前に入ったの」
「ヘヘッ、高木さん冗談うまいや。
 いつもオレ、サボってばかりいるから懲らしめたいだけなんだろう」
「そうなんだって言ってあげたいけど、いい若旦那さん、
 これは現実なの。早く行っておあげなさい」

私は高木の言葉を、呆然と聞いていた。
小松橋というのは旅館から二キロほど離れた所にある。
渓谷に架けられている小さな吊り橋である。川面から橋までの高さは20メートルは
ゆうに有って河原には大人の一抱えほどもある大石が、至る所にゴロゴロと転がっている。
そこから落ちれば、人間なんてひとたまりもない。無残な屍を人目に晒すだけである。

(どうして奈津が、死ななければならないんだ。自殺などもってのほかだ)
心の中で叫びながら、私は小松橋の袂まで全力で駆け続けた。
 
色あせたハンカチ02
土手の上から見ると、河原では十数人もの村人と、急の知らせを受けて駆けつけた
駐在所の巡査が、人形のように横たわった遺体を取り巻いていた。
私は土手から河原に続く細くて急峻な湿った道を、何度も滑って転びそうになりながら
降りて行った。

ああ、邪魔だ邪魔だ。見世物じゃない」
私を見つけた巡査は、野次馬を追い払うような仕草で悪し様に言った。
奈津が自殺したと聞かされて、頭に血が昇っていた私には巡査も屁ったくれない。
制止しょうとする巡査の手を払い除け、強引に人垣の中に割って入った。

(人違いであってくれ)
私の悲痛な願いは一瞬のうちに飛散した。遺体は間違いなく奈津であった。
奈津は誰が持って来てくれたのか、筵の上に両手で拝むように胸の上で合わされた姿で
安置されていた。
頭がザクロのように割れ、長い髪に血と脳みそがべっとりとこびり付いている。
つい数日前も、私が何度も指先で撫でながら、梳(くしけづ)った美しい髪だ。

私は腹の底から力がしぼむ様に抜けていくのを感じ、ガックリとその場に跪いた。
「奈津・・・ううっ、うううっ」
人目も気にせず、その場で絶叫した。其の声は渓谷に響き、木霊と成って空しく
返って来るだけだった。

奈津が自殺した理由は、彼女の両親から語られる事はなかった。
家に残されていたと言う遺書は、警察が自殺と認知した後、
その日のうちに第三者の目に触れることなく、父親の手で焼却されたのだそうだ。

どうして奈津が自分で命を絶たなければならなかったのか。その理由に関して、
いろいろな噂や憶測が村の中で一人歩きした。
いずれも奈津を冒涜する、下卑な話ばかりだ。中には私の子供を妊娠して、
誰にも相談できずに苦悩した挙句に死を選んだという、実に出来すぎた中傷もあった。
検死解剖でその事実は否定されていたにも関わらず・・・である。

奈津が自殺したことは、動かしようのない事実だった。
どうして事前に話して呉れなかったのか、死の数日前にも私達は会っていた。
其の時に、悩んでいる奈津にどうして気付いて遣れなかったのか。
理由はどうであれ、其のことだけが悔悟の念となり、大きな傷を心に残してしまった。
色あせたハンカチ03
♪竹 笛
作詞 万屋 太郎(横浜市在住)
作曲 麻生 新(千葉県在住) 
編曲 麻生 新
歌唱 麻生 新

歌が聞けます。
-1-
いつの夜も 山に響いた  笛の音は
未だ若き  愛しき人の  呼び声か
知り合った 星降る夜の  村祭り
お下げ髪  浴衣が似合う 竹笛の君

-2-
故郷の  山に向かいて 君が吹く
引きつられ 私も歌う   かすれ声
二人して  微笑返す   春の日に
吹く風が  後れ毛揺らす 竹笛の君

-3-
雨降る日  君の最後に  立ち会って
言葉無き  唇悲し    紅をさす
流れ来る  笛の音悲し  野辺送り
若さゆえ  誰もが泣いた 竹笛の君

私と奈津は家が近かった事から、兄妹の様に育ってきた。
奈津は私より二歳年下で母親譲りの面長で可愛い娘だった。
母親は私の旅館で一時働いていた事もある。
家族ぐるみの交際で、将来は私と結婚して若女将に成って呉れれば良いと、
父などは本気で考えていたようだ。

実際、私と奈津は幼友達の垣根を越えて愛し合う仲に成っていた。
初めて愛を交わしたのは、私が十九歳で奈津が高校の二年生の夏休みの事だった。
その日の事は、あれから四十年以上も過ぎているのに、昨日の事の様にはっきりと
覚えている。

  1. 色あせたハンカチ
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Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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