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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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昭和のメルヘン・ゆびさきの詩(うた)。其の十六

◇性の極地(Ⅰ)
画像 157
夜明けと言うには暗すぎる街道を一台の車が走っていた。
遠く国分の灯台を右に見て山沿いの波に乗って整備されている筈だか、
舗装されてない道路はデコボコが激しく、70年型のダッヂが大きくバウンドして急いでいる
佐智子の急変に取り急ぎ本宅から呼び寄せた伊集院家の自家用車である。

シートに深く身体を埋めて、肩を寄せ合った辰雄と志津子の胸に去来するのは、
死を悟ったので有ろうこの時に、志津子の元に行けと促した佐智子の愛に
背くように愛欲に溺れた背信行為が罪悪感と成って心を苛むので有った。

辰雄の場合、十数年ぶりに最愛の志津子との、たたれるような甘い
肉感の夜がもたらした悦びと共に、止む無く夫婦に成ったとは言え、
佐智子との絆は、十余年の歳月をかけた生活の中に
生まれ、育まれた夫婦の愛情は、志津子に対する
愛とは異なって、辰雄の肉体の、そして生活の一部
となって培われてきたのである。

寄り添って姉の身を案じる志津子の肩を、
そっと抱いて、“佐智子頑張るんだよ”と心に念じて
ヘッドライトの光に照らし出された、
白い道筋を見詰めていた。

志津子の脳裏に去来する思いでは悲しかった。
家の為と言う美名の下に初恋の人を奪われて、
無理矢理に老人の許に押し付けられて十余年、
姉婿となった最愛の人に接する苦痛に絶えかねて、
また母への抵抗もあって、一度も実家には帰らなかった。
 
画像 151
空ろな心を癒す術も無く、欲情するままに、さ迷った
肉体の放浪も、年老いた夫の死によって、
その反抗する対象を失ってからは、密やかに独り生きる事に、
寧ろ楽しみさえ覚え、其の中に静かに
初恋の人を偲んで、自らを慰めて来た志津子は
十余年ぶりにその人を取り戻して、喜びの絶頂に
あった時だけに、志津子の心は痛んだ。

「お姉さん、許して・・・もう決して辰雄兄さんを
 取りません、だから元気に成って・・・」
心の中で叫びながら目を閉じていた。

車は明けかけた山道を、朝靄を衝いて登って行く。
十余年ぶりに見る我が家は見違える様な豪壮なホテルへと変わり、
志津子が夢にまで見た故郷の姿は、もうなかった。
大ホテルの主人らしく、おっとりと入る辰雄に、
「お帰りなさいませ」
と頭を下げる従業員のどの顔も志津子の知らない顔ばかりだった

ハンカチを目に当てて、駆け出して来る母を見た瞬間、
二人には、
もう佐智子が、既にこの世の者でない事が察しられた。

「志津子、遅かった・・・」
めっきり年老いた母は、志津子にしがみ付いて、
すすり泣いた。
克って志津子を無理に伊集院に、
売りつけた母では有るが、
十余年の歳月がその恨みを消して、
佐智子の死を悲しむ母をそっと抱きしめた。

「お母さん・・・」
と叫ぶと志津子の心の張りが抜けて、
とめどなく涙が溢れてきた。
其れは佐智子の死を悼む涙ではなく、
肉親の血が血を呼ぶ熱い涙であった。

「さあー玄関で泣いて居ても仕方がない・・
 部屋に行きましょう・・・」
促す辰雄の目も潤んでいた。
千原しのぶ
死に顔を見るまでは切実感がなく、
もしや間違いではと言う一抹の期待も有ったのだが、
志津子が眠って居る様な安らかな佐智子の顔を
見た途端、この上ない悲しみが込み上げてきて、
佐智子の亡骸にすがって泣き伏した。
「おねえさん、如何して死んでしまったの・・・」
辰雄は部屋の片隅で目を真っ赤にして、
ハンカチで目頭を押えている。

「佐智子がなぁ・・急に志津子、志津子と言い出して
 辰雄さんに、志津子の所に行かせたんだよ」
「お前に逢いたがって居たよ・・・ 
 もう一時間早かったらなぁ・・・
 どんなにか・・・どんなにか・・・」
後は言葉に成らぬほど泣きじゃくりながら、
佐智子の髪を撫でている母であった。
「おねえさん・・・・」泣き崩れる志津子、

「佐智子がなぁ、志津子は可哀想な子だと、
 口癖の様に言ってたよ。
 志津子・・・母さんが悪かったょ、許しておくれ・・・」

志津子に向けていた目を再び佐智子に戻し、
其の顔を抱かかえながら、
「佐智子がなぁ、息を引き取る少し前に、
 志津子をば是非呼び戻して、辰雄さんと
 一緒にして呉れ、そして佐智子には出来なかった
 孫を生んで貰って呉と、何度も何度も・・・・」
皺の増えた顔を涙で汚して泣きじゃくり、
遂には遺体の上に泣き伏した。

涙の中に母の話を聞いて居た、志津子は母の嘆きに
つり込まれて総身の嗚咽が一気に込み上げて、
「ワァーッ」と泣き伏した。

姉が何時も自分を気遣って呉、幸せを願っていて
呉れたのに・・・自分の背徳が悲しく胸に迫るのだ。
悲しみの涙が、いつしか罪罰の総てを洗い清める
涙に変わり、泣いて居ることによって救われる様な
気持ちに成った。母と子の、そして姉妹の美しい
思いやりの涙が、懇々と流れて胸を洗い流して行く。
  1. 小説・指先の詩(うた)
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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