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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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昭和のメルヘン・ゆびさきの詩(うた)。其の十九

◇性の極地 (Ⅳ)
夏目雅子
其の日は朝から晴れていて庭先の芭蕉が露に濡れて大きな葉を
揺るがしていた。
迎えた、隆男は、あの日、あの事があったので落ち着かない。
だが彼女は、あの事に付いては一言も触れず、
隆男の妻と挨拶を交わした。

「久方ぶりにお帰りになったんですもの、今日は、
 ごゆっくりなさってよ、泊まってらっしゃるんでしょう、
 いろいろお話も御座いますわ」
何も知らず、いそいそと迎える彼の妻を見て、彼女は、
ああ良かった、とあの日に過ちを犯さなかった自分にホッとした。

「今日はご相談したい事が有りましてお伺い致しましたの」
改まった志津子の態度に、あの日の事を言い出されるのでは無いかと、
そわそわしながら、
「改まって何のご相談でしょうか」
「実は里の姉も亡くなりましたし、両親も大分歳を取りましたので
 一応伊集院家から出て里の面倒を見たいと思いまましたので」
さすがに辰雄との事は口にだせなかったが、志津子は
青白く引き締まった顔に決意の程を見せていた。

「その事でしたら、何も籍を抜いたりなさらずとも、何時でも里帰り出来るし・・・
 またご両親をお呼びして・・・別荘でも此処でも貴女のお家ですから
 なんの気兼ねも要らないのですよ」

志津子の決意が、あの日の自分の行動によるものとしか思えず、
また自分の心の底に残る志津子への執着を振り切れなく、
極力翻意を促したが、彼女の硬い決意をしって、渋々承諾した。

「親父の遺言も有りまして、志津子さんにはそれ相応の
 財産分与も考えて居りますが・・・、
 他人に成ると言うのは何だか寂しいな」

傍で聞いていた彼の妻も、寂しそうに、
「そうね、義母(おかあさん)と言うより私は姉妹の様に
 思っていましたのに、寂しいわ」
しみじみとした口調でいった。
志津子は法的云々という事、財産に関する要求は一切しなかった。
 
ゆびさきの詩10-2
只、伊集院の後家という立場から開放され辰雄と一緒に生きる事が、
幸せに成れる事だと信じていた。

然し、それでは隆男夫婦の良心が咎めるのか、
何も与えずに放りだしたと、世間に言われては、
「名門伊集院家」の名を汚す事に成る。

孝雄は志津子に、山川 の別荘と彼女の生家の近くに有る山林、
其れに亡夫の遺言に有った、一部上場の大手電気メーカーの株券、
一千万相当と、当座の生活費として二百万円を贈る事を約束した。
十年余年ぶりに志津子は誰にも何の制約も受けずに済む
自由の身になったのである。

晴れて自分名義に成った山川の別荘は、是からは辰雄と志津子の
愛の巣と成ったのである。
年も変わり山川の屋敷で迎える新春は何時もと変わらぬ筈なのに
志津子の心は乙女の頃の様に弾んで落ち着きを失って居た。

いじらしい程にひた向きな愛情が志津子を三十路女とも思えぬ程の
乙女らしさにして居ることを知って居るだけにお兼は、ふと妬ましい
気持ちにさえ成った。
「奥様イェ・・・志津子様落ち着きあそばせ・・・
 でないと疲れますわよ・・・」
「あら・・・そんな風に見えるかしら・・・」

お兼に心の中を覗かれた思いで、頬を染める志津子は、
久方振りに迎える辰雄との逢瀬を期待して、
息の詰まる程に、悩ましく、己の乳房を抱いて居た。

ブレーキのきしむ音が表の方に聞こえて、お兼が玄関へ
走るのがうかがわれる。この一瞬の為に早朝から身じまいをかませて、
待つた志津子の胸がときめいて、いそいそと其の身を玄関に
運ぶ姿には、三十五歳を過ぎたとも思えぬ純情さが伺われた。

我が身を辰雄に投げかけて見たい衝動を、じっと抑えて、
佇む姿に恥じらいを現す風情があって辰雄の胸を締め付けた。
辰雄には、あの頃と変わらぬ志津子の様に思え、
一気に十余年昔の志津子を取り戻した感激を込めて口を切った。

「おめでとう!志津ちゃん・・・ちょっと出掛けない・・・
 三社参りかたがたのドライブもいいだろう」
「えぇ・・・」
いそいそと着替える志津子に真の春が訪れたのだ。

雲合いから照らす初日を受けて車は指宿街道を走った。
在る時は海に沿い、在る時は林の中の道を北に向かって・・・。
城山の麓の照国神社にぬかずく二人の姿は、
しっくり落ち着いた若夫婦の姿である。

境内を廻って左手の林から小池を巡って、ドウカのある松林を歩くと、
新春の空気が胸一杯に染み渡って心地よく、初参りに相応しく、
二人の心に清々しい祝福を与えた。
  1. 小説・指先の詩(うた)
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Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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