波乱の夫婦生活。其の五
◇離婚の危機◇
商売が上手くいっている時も、
夫の素行にまったく疑いを持って居ない訳では有りませんでした。
接待だと称して帰宅が午前さまになったり、酷い時は朝帰りをしたり、
休日に出掛ける事も一度や二度では無かったからです。
そればかりか、香水の匂いをプンプンさせて帰ることも珍しく有りませんでした。
女の気配は感じていましたが、それでも放っておきました。
飲み屋の女と遊んでいるかも知れないと言う猜疑心は有りましたが、
夫を信じる気持ちの方が強かったのです。
しかし、そんな私たちの夫婦関係の翳りが濃くなったのは昭和55年頃だったでしょうか。
ときはバブル景気に湧いていた時代でした。日本の経済が飛躍したのとは対照的に、
夫の会社は斜陽の一途を辿るばかりでした。
日産やトヨタの高級車がバンバン売れているとマスコミを賑わせていたのと、
夫の会社が倒産したのは殆ど同時期だったと思います。
それからというもの、夫はすっかり人が変わった様になってしまいました。
夫の生活は、もう荒れ放題でした。朝から大酒を飲み、私が文句を言うと、
今で言うところの逆ギレを起こしていたのです。それはもう、見るに忍びない情けなさでした。
「何だ、其の目は!オレのことを軽蔑してるなっ。甲斐性なしの穀潰しだと思ってるだろうっ?
ええい、クソっ、面白くもない。おまえの顔なんか見たくもない!」
「どこへ行くの、あなたっ」
「女のとこに決まってんだろうっ。オレにだって、別宅の一軒や二軒あるんだぜ!」
其の頃になると、夫は女がいることを隠そうともしませんでした。
新橋で飲み屋をやっている年増のマダムに入れ上げ、彼女の家に入り浸り状態でした。
本当に、地獄でした。会社は倒産する、夫は水商売の女の情夫気取り、
当然、夫婦喧嘩も絶えず、思春期に入った娘二人も毎日、泣いてばかりいました。
言うまでもなく、私もイライラしっぱなし、お先真っ暗の日々でした。
精神面だけではなく、夫が家に寄りつかないときては、四十に近い女盛りの
肉体が黙ってはいませんでした。肉体的にも、私は酷い欲求不満をかこっていました。
それでなくても、私は欲望の強いタチでした。嫉妬心ばかりでなく、
男日照りに心身とも苛まれていたのです。辛い我慢が、半年ほど続きました。
「人を見る目はあったつもりだったが・・・。
藤村君が、これほど不甲斐ないとは思っても見なかった。
世津子、家へ帰ってきなさい。お前たち三人の面倒くらい見てやるから」
私たちの惨状を見かねて、実家の父も離婚を勧めるようになりました。私も、
(もう、限界。こんなんじゃ、とても夫婦とは、家族とは言えないわ)
両親の勧めに従おうか、と決心せざるを得ませんでした。
私たちの夫婦生活は崩壊寸前、いえ、すでに崩壊していたと言っても
言い過ぎではなかったのです。
「明日、お爺ちゃんの家に行くわよ。この家をでましょう」
そして、私は実家に戻る決意をし、子供たちも同意してくれたのです。
そんな折りも折り、翌朝には実家に子供を連れて戻ろうかと言う前の深夜でした。
何週間も帰って来なかった夫が、ひょっこり戻ってきたのです。
「何だ、その荷物は?世津子、おまえ、まさか・・・」
荷造りをしていた私を見て、夫は顔色を変えました。
「何か、イヤな予感がしたんだ。出て行くつもりなのかっ、
オレを捨てて実家へ帰るつもりなんだな!」
「大きな声を出さないで下さい。子供たちは、もう眠ってしまっているんですから。
ええ、そうですとも。私たちは、もうお終いよ。お別れしましょう」
「ふざけるなっ。オレは絶対、別れんぞっ、誰が離婚するか!」
「何を今更!女のところに入り浸りののくせに、よくもそんな事が言えるわねっ。
こんな状態じゃ、とても家族とは言えない。戸籍上、夫婦でいたって意味はないわ。
あなたには、あの女がいるじゃないの。あの女と一緒になればいいんだわ」
「イヤだっ、オレには、世津子しかいないんだ。実家になんか帰さないぞ!」
夫の言い草には、呆れ返るばかりでした。今まで、さんざん好き放題遣ってきたくせして、
余りにも勝手過ぎます。
商売が上手くいっている時も、
夫の素行にまったく疑いを持って居ない訳では有りませんでした。
接待だと称して帰宅が午前さまになったり、酷い時は朝帰りをしたり、
休日に出掛ける事も一度や二度では無かったからです。
そればかりか、香水の匂いをプンプンさせて帰ることも珍しく有りませんでした。
女の気配は感じていましたが、それでも放っておきました。
飲み屋の女と遊んでいるかも知れないと言う猜疑心は有りましたが、
夫を信じる気持ちの方が強かったのです。
しかし、そんな私たちの夫婦関係の翳りが濃くなったのは昭和55年頃だったでしょうか。
ときはバブル景気に湧いていた時代でした。日本の経済が飛躍したのとは対照的に、
夫の会社は斜陽の一途を辿るばかりでした。
日産やトヨタの高級車がバンバン売れているとマスコミを賑わせていたのと、
夫の会社が倒産したのは殆ど同時期だったと思います。
それからというもの、夫はすっかり人が変わった様になってしまいました。
夫の生活は、もう荒れ放題でした。朝から大酒を飲み、私が文句を言うと、
今で言うところの逆ギレを起こしていたのです。それはもう、見るに忍びない情けなさでした。
「何だ、其の目は!オレのことを軽蔑してるなっ。甲斐性なしの穀潰しだと思ってるだろうっ?
ええい、クソっ、面白くもない。おまえの顔なんか見たくもない!」
「どこへ行くの、あなたっ」
「女のとこに決まってんだろうっ。オレにだって、別宅の一軒や二軒あるんだぜ!」
其の頃になると、夫は女がいることを隠そうともしませんでした。
新橋で飲み屋をやっている年増のマダムに入れ上げ、彼女の家に入り浸り状態でした。
本当に、地獄でした。会社は倒産する、夫は水商売の女の情夫気取り、
当然、夫婦喧嘩も絶えず、思春期に入った娘二人も毎日、泣いてばかりいました。
言うまでもなく、私もイライラしっぱなし、お先真っ暗の日々でした。
精神面だけではなく、夫が家に寄りつかないときては、四十に近い女盛りの
肉体が黙ってはいませんでした。肉体的にも、私は酷い欲求不満をかこっていました。
それでなくても、私は欲望の強いタチでした。嫉妬心ばかりでなく、
男日照りに心身とも苛まれていたのです。辛い我慢が、半年ほど続きました。
「人を見る目はあったつもりだったが・・・。
藤村君が、これほど不甲斐ないとは思っても見なかった。
世津子、家へ帰ってきなさい。お前たち三人の面倒くらい見てやるから」
私たちの惨状を見かねて、実家の父も離婚を勧めるようになりました。私も、
(もう、限界。こんなんじゃ、とても夫婦とは、家族とは言えないわ)
両親の勧めに従おうか、と決心せざるを得ませんでした。
私たちの夫婦生活は崩壊寸前、いえ、すでに崩壊していたと言っても
言い過ぎではなかったのです。
「明日、お爺ちゃんの家に行くわよ。この家をでましょう」
そして、私は実家に戻る決意をし、子供たちも同意してくれたのです。
そんな折りも折り、翌朝には実家に子供を連れて戻ろうかと言う前の深夜でした。
何週間も帰って来なかった夫が、ひょっこり戻ってきたのです。
「何だ、その荷物は?世津子、おまえ、まさか・・・」
荷造りをしていた私を見て、夫は顔色を変えました。
「何か、イヤな予感がしたんだ。出て行くつもりなのかっ、
オレを捨てて実家へ帰るつもりなんだな!」
「大きな声を出さないで下さい。子供たちは、もう眠ってしまっているんですから。
ええ、そうですとも。私たちは、もうお終いよ。お別れしましょう」
「ふざけるなっ。オレは絶対、別れんぞっ、誰が離婚するか!」
「何を今更!女のところに入り浸りののくせに、よくもそんな事が言えるわねっ。
こんな状態じゃ、とても家族とは言えない。戸籍上、夫婦でいたって意味はないわ。
あなたには、あの女がいるじゃないの。あの女と一緒になればいいんだわ」
「イヤだっ、オレには、世津子しかいないんだ。実家になんか帰さないぞ!」
夫の言い草には、呆れ返るばかりでした。今まで、さんざん好き放題遣ってきたくせして、
余りにも勝手過ぎます。
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プロフィール
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。
私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。
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