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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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乙女の心遣い。其のニ

~幸せの小鉢                                            ~
乙女の心遣い03
二十二歳になった私は、工場の寮を出る事に成りました。
同じ様な中卒者が、少ないとはいえ毎年入ってくるからトコロ天式に
押し出されるのです。汚い寮でしたが、それでも住めば都でした。
出る一年前には寮長になり、一人部屋が与えられていたので、
出たくなかったのですが、しかたありませんでした。

外に出れば、自分でアパートを借りねばならない事もですが、
めしの支度も自分でせねば成りません。金も掛かるが手間も掛かると言う事でした。
仕送りもまだまだ続けており、遣り繰りを考えると、暗い気持ちに成ったものでした。

「自炊もけっこう楽しいぜ。たまには食わせてやるからこいよ」
先に寮を出た先輩がそういって呉れたりしましたが、
私は、どこか飯屋に行けば良いと思いました。
残響もあったりしたので、とても帰ってから飯を作る気には到底成りませんでした。 

寮は、工場の前でしたが、寮を出るからにはプライベートを楽しみたいと思い、
今度は少し離れた処にアパートを借りました。それでも歩いて二十分ほどの距離です。
駅に近かったせいか、四畳半のボロアパートにしては家賃が高かったと思います。

驚く事に、隣りの四畳半には、四人家族が住んでいました。田舎出の私にはおよそ
信じがたい光景でしたが、当時では、そんな家庭は珍しくはなかったようです。

最初のうちは、あちこちの食堂で晩飯を取っていましたが、
そのうちに一軒の大衆食堂ばかりに行くように成りました。

今でも時折り見かけますが、ガラスのショーケースに、様々なおかずが並んでいて、
それを好きなだけ取り、ご飯と味噌汁をもらう形式の食堂です。
田舎育ちの私には、洋食や丼物より、やはりそういったおかずを何品か並べる
食事の方が合いました。

もっとも、それは丼物などと違って、結構高くつきました。
店のイメージからして安いという気がするのですが、美味そうなので一品、二品と
おかずをついつい取ると、結構高く成ってしまうわけです。

それでもやっていけたのは、時期が高度成長期で残業が多く手取りは多かったのですが、
金は有っても暇がない状態で唯一食べる事ぐらいしか楽しみがなかったからです。
 
乙女の心遣い04
工場とその食堂とアパートの四畳半の行ったり来たりの繰り返しの様な日々でしたが、
ある日のことです。何時もの様に、お盆におかずを置いて、大盛り飯と味噌汁を
注文して、決まった席に着いて箸を割っていると、ポンと頼みもしない小鉢が
置かれました。ホウレン草のおひたしです。
「え?」と見上げると、其の店のいわば看板娘がニコニコと笑っていました。

「ホウレン草は血を作るから」
「でも、たのんでないよ」
「オ・マ・ケ」
「あ、ありがとう」

看板娘と言っても、決して美人ではありません。愛嬌のある顔いえば言えましたが、
いつもその顔は見ていても口をきくのはその時が初めてでした。
たまたま他に客が居なかったからかもしれません。いや、おそらくそうでしょう。
常連へのちょっとしたサービス。通いだしてすでに半年がたっていました。

私はそれでも嬉しくてたまりませんでしたが、それを必死で抑えるように
あたふたと飯をかきこんだものでした。

工場では先輩や上司には可愛がられていましたが、こと女性に、それも自分と
同じくらいの若い女に、優しくされたのは、生まれて初めての事でした。

たった一品の小さなおかずでしたが、胸がもう一杯に成って、
飯の味がよく判らなかったのを憶えています。
およそ感動と言うものは、ほんのささやかな事で生じるのかも知れません。

照れも有って、大したお礼も言わぬまま私は、そそくさと店を出ましたが、
それでもその時はまだ、彼女が私に気があるなどとは思いもしませんでした。
私には優しさや好意だと思っても、彼女にとっては、ただの親切、サービス、
気まぐれに過ぎないだろうと思って居たのです。
生まれてこのかた、モテた事などそれまで一度もありませんでしたから。

私たちの中学生時分は、今と違ってまだまだ可愛いものでしたが、
それでも誰それが誰を好きだとかという噂は流れていました。私が思いを寄せた
子はいても、私に思いを寄せてくれた子はいたことがありませんでした。
工場はまったくの男の世界ですし、ですから、私は、一生、お金も無い事だから、
女と付き合うことはないだろうと、どこかで諦め、達観すらしていたのです。

  1. 夫婦の今と昔
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アヤメ草

Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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