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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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色ごのみ。其の二

◇初めて知った夫以外の男
色好み2-1
いい思い出のない初夜の晩から、十年の歳月が流れました。
その間の私たちの結婚生活は、可もなく不可もなくと言ったごく平凡なものでした。
結婚当初は、T大の講師だった夫も、三十五歳にして目出度く助教授に、
私も三十歳になり、男の子一人、女の子一人の母親になることが出来ました。

本当に、順風満帆な生活でした。もともと地方の素封家に生まれた夫ですので、
経済的には何の苦労もなく、お手伝いさんを雇ってくれ、私には何かにつけ
心を配ってくれました。彼自身も、文字通り学者肌の人で真面目一方、
浮気問題の一つも起こした事がありません。

(私、徳永と結婚してよかった・・・)
この十年の間、何度そう思ったか知れません。それなのに・・・。
上の男の子が小学校へ入学し、下の子が五つになってようやく子育てから
解放されそうになった頃、突如として激しい倦怠感が私を襲ったのです。
どうしてそんな物に患わされるのか、私にも暫く訳が分かりませんでした。

ところが、ある日のことです。夫の雄造が、家に何人かの教え子を連れて来たのです。
その学生の中に、後に私の愛人となる小山武(仮名)が居たのです。
小山は、数人の学生の中でもひときわ長身でゾクッとするような風貌を備えていました。

一目見るなり、私は息が詰まるような昂奮に襲われました。
少女のように胸をドキドキ高鳴らせ、足が地についている気もしませんでした。

(何て素敵な男性・・・。ああ、私ったらいけないわ、夫のある身なのに・・・)
そう自分を叱りながらも、
お茶を出す手がブルブルと震えるのをどうしようもありませんでした。 
気のせいか、小山武の私を見つめる眼差しも熱いように思えました。

「いやあ、徳永先生の奥さん、噂どおりの美人だなぁ!」
「ホント、ホント。若くてお美しい!」
「我が大学には、奥さんに適う女学生は一人も居りませんよ!」
他の学生の叩く軽口にも、小山は加わっていませんでした。
小山の無口ぶりに、私の胸のときめきはいよいよ拍車をかけたのです。
 
色好み2-2
いいえ、ときめきばかりか、私は肉体の芯にズン!と性的衝撃すら感じていました。
それと同時に、モヤモヤとした倦怠感が消え去っていたのです。
私が夫に倦怠を抱いたのは性愛が原因かもしれない、と思い当たりました。

十年の結婚生活は、
私からときめきと性愛の歓びを忘れさせただけのものだったのでしょうか。
思えば、夫の営みは万事が初夜のままでした。
前戯らしいものは何もなく、サッサと交合しては一人で果てていく・・・。
その繰り返しだったのです。

三十にもなった私は、もはや処女でも初心な乙女でもありません。
立派に成熟した一人前の女なのです。
それなのに、夫の性交は相変わらず無味乾燥。
これでは、肉体が飢えても仕方ないではありませんか。

そのときの私は、まさしく透きだらけの状態だったのでしょう。
それを見破ったであろう小山武から手紙を貰ったのは、
彼が家に来てから一週間目のことでした。

ーー無礼な手紙を出すことをお許し下さい。
 僕は奥様をひと目拝してから、夜も満足に眠れぬ様に成ってしまいました。
 先生の奥様を思うなど、非礼もはなはだしいかと存じます。
 けれど、僕はどうしても奥様を忘れる事が出来ません。
 是が非でも、奥様とゆっくりお話がしたいのです。
 一度でいい。奥様と二人きりになれるのなら、
 死んでも本望と思っておりますーー

小山の手紙は、私の女心を大きく揺さぶりました。
生まれて初めて貰った恋文でした。

私は、居ても立ってもおられず、自分から小山武の下宿へと足を運んでいました。
私とて、あの日以来、小山武の事を一日も忘れた事がなかったのです。

夫に対する後ろめたさは、ここに書き記すまでもありません。
夫には本当に申し訳ないと思いつつ、私は引きずられるようにして
高田馬場の彼の下宿へと出向いていったのです。彼に肉体を許す覚悟で・・・。
  1. 夫婦の今と昔
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アヤメ草

Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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