マゾ女の誘惑。其の一
◇クラシック喫茶の女
べつに都会の女を気取っている訳でもなさそうなのに、妙に気だるい雰囲気を色濃く
持っている女だった。歳は三十前後だろうか。
切れ長の目をしたやや面長の美人で、しかも体つきもかなりのグラマーに感じられた。
ただ煙草を吸ったりコーヒーカップを持ったりする時の何気ない仕草が、
なんとも気だるく投げやりな様子だった。
出会ったのは、新宿のクラシック喫茶。今から五十年近く前のことで、
当時私は二十歳の大学生だった。喫茶店全盛の時代である。
コーヒー一杯が百円か百五十円位だったように記憶している。
あの頃は七十年安保の学生運動が真っ盛りで、
大学はもう騒然としていて勉強どころではなくなっていた。
で、学生運動に興味のないノンポリ学生が時間をつぶすのに、
多少粋がったところのある学生はジャズ喫茶などにたむろし、
私の様に地味で孤独な学生はクラシック喫茶のひっそりとした空気に身を浸していた。
ジャズ喫茶のコーヒーは薄めで、
クラシック喫茶は濃くて苦いというそんな違いもあったような気がする。
またジャズ喫茶はわりと狭い店内にやかましいほど音が響き、
クラシック喫茶は広めの空間にボリュームを押さえ気味にした音が流れていた。
さすがにベートーベンやマーラーの曲はうるさかったが。
四月の末だった。女は、私より後から入ってきて、私の横の席に座った。
ストレートの長めの髪を横分けにし、グレーの上等そうなツーピースを着た姿は、
どこかいいところの奥様ふうの落ち着いた印象だった。
ところがいきなり足なんか組んで気だるく煙草を吸い始め、
しかもそのスカートが短めだったから太腿の半分くらいが見えて、
私はしだいに落ち着かなくなって気がつくとつい女の方を向いてしまっていた。
女は最初、私の事などまるで気にする風も無かった。
なのに、シューベルトの「未完成交響曲」が終ったのを機に立ち上がり、いきなり、
「ねぇ、ちょっと私に付き合ってくださらないかしら」と話し掛けて来たのだ。
「はあ・・・」
あいまいに頷きながら然し私も、自然に立ち上がっていた。
外に出ると、直ぐに腕を組んで来た。しかも胸の膨らみをぴったりと
当てて来るものだから、私は、うろたえて思わず体を硬くしてしまった。
おそらくそれでもう女は、私があまり女性経験のない初心な学生だと、悟った事だろう。
「あなた、可愛いわ」と言いた。
そうして歌舞伎町裏のホテル街の方にずんずん歩いてゆく。
なんだかもう、気が付いたらラブホテルの部屋の中だった、と言う感じだった。
女は上着を脱いでスリップ一枚になり、
「私の事、あばずれだと思う?」
と聞いてきたとき、私はただ黙って首を振るばかりだった。
女はちょっと子供をあやすような慈しむような目をして、
唇をふわっと広げながら微笑みかけた。
「いいのよ。ほんとうにそうなんだから」
立ち尽くしたまま私は、また首を振った。
「かわいいのね、ほんとに」
横目で私を見ながら女は、バスルームに向かった。
その後ろ姿のスリップの下にミニのスキャンティが透けて見え、
大きな尻の膨らみの裾野がはみ出ているのもわかった。
バスルームのドアから顔だけを出して女が、
「いらっしゃい、あなたも」そう言われて私はもう、
引き寄せられて、よろけるような足どりでそちらの方に歩いてしまった。
脱衣所に入ると、女はすでに裸になっていた。
あわてて目をそらす。女は、ふふ、と微かな笑い声を上げた。
肌は抜けるように白く、つんと尖ったように高く盛り上がった乳房はいかにも
豊かな弾力がありそうで、目も眩むほど挑発的だった。
「早くあなたも、脱いじゃいなさい。そしたら勇気がわくわよ」
なんだかもう、何もかも見透かされているみたいで。
言われるままに私は、やけくそのような勢いで素っ裸になり、
女の後に付いていった。
べつに都会の女を気取っている訳でもなさそうなのに、妙に気だるい雰囲気を色濃く
持っている女だった。歳は三十前後だろうか。
切れ長の目をしたやや面長の美人で、しかも体つきもかなりのグラマーに感じられた。
ただ煙草を吸ったりコーヒーカップを持ったりする時の何気ない仕草が、
なんとも気だるく投げやりな様子だった。
出会ったのは、新宿のクラシック喫茶。今から五十年近く前のことで、
当時私は二十歳の大学生だった。喫茶店全盛の時代である。
コーヒー一杯が百円か百五十円位だったように記憶している。
あの頃は七十年安保の学生運動が真っ盛りで、
大学はもう騒然としていて勉強どころではなくなっていた。
で、学生運動に興味のないノンポリ学生が時間をつぶすのに、
多少粋がったところのある学生はジャズ喫茶などにたむろし、
私の様に地味で孤独な学生はクラシック喫茶のひっそりとした空気に身を浸していた。
ジャズ喫茶のコーヒーは薄めで、
クラシック喫茶は濃くて苦いというそんな違いもあったような気がする。
またジャズ喫茶はわりと狭い店内にやかましいほど音が響き、
クラシック喫茶は広めの空間にボリュームを押さえ気味にした音が流れていた。
さすがにベートーベンやマーラーの曲はうるさかったが。
四月の末だった。女は、私より後から入ってきて、私の横の席に座った。
ストレートの長めの髪を横分けにし、グレーの上等そうなツーピースを着た姿は、
どこかいいところの奥様ふうの落ち着いた印象だった。
ところがいきなり足なんか組んで気だるく煙草を吸い始め、
しかもそのスカートが短めだったから太腿の半分くらいが見えて、
私はしだいに落ち着かなくなって気がつくとつい女の方を向いてしまっていた。
女は最初、私の事などまるで気にする風も無かった。
なのに、シューベルトの「未完成交響曲」が終ったのを機に立ち上がり、いきなり、
「ねぇ、ちょっと私に付き合ってくださらないかしら」と話し掛けて来たのだ。
「はあ・・・」
あいまいに頷きながら然し私も、自然に立ち上がっていた。
外に出ると、直ぐに腕を組んで来た。しかも胸の膨らみをぴったりと
当てて来るものだから、私は、うろたえて思わず体を硬くしてしまった。
おそらくそれでもう女は、私があまり女性経験のない初心な学生だと、悟った事だろう。
「あなた、可愛いわ」と言いた。
そうして歌舞伎町裏のホテル街の方にずんずん歩いてゆく。
なんだかもう、気が付いたらラブホテルの部屋の中だった、と言う感じだった。
女は上着を脱いでスリップ一枚になり、
「私の事、あばずれだと思う?」
と聞いてきたとき、私はただ黙って首を振るばかりだった。
女はちょっと子供をあやすような慈しむような目をして、
唇をふわっと広げながら微笑みかけた。
「いいのよ。ほんとうにそうなんだから」
立ち尽くしたまま私は、また首を振った。
「かわいいのね、ほんとに」
横目で私を見ながら女は、バスルームに向かった。
その後ろ姿のスリップの下にミニのスキャンティが透けて見え、
大きな尻の膨らみの裾野がはみ出ているのもわかった。
バスルームのドアから顔だけを出して女が、
「いらっしゃい、あなたも」そう言われて私はもう、
引き寄せられて、よろけるような足どりでそちらの方に歩いてしまった。
脱衣所に入ると、女はすでに裸になっていた。
あわてて目をそらす。女は、ふふ、と微かな笑い声を上げた。
肌は抜けるように白く、つんと尖ったように高く盛り上がった乳房はいかにも
豊かな弾力がありそうで、目も眩むほど挑発的だった。
「早くあなたも、脱いじゃいなさい。そしたら勇気がわくわよ」
なんだかもう、何もかも見透かされているみたいで。
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“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
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