若衆入りの儀式。其の十ニ
真由美さんの黄色プリーツスカートが歩くたびに左右にさざ波の様に揺れるのに
私は密かに欲情していた。私の心の中では白衣姿の真由美さんが病院のベッドで
男性患者のペニスを握って激しく手を動かしている光景がよぎった。
「真由美さんは、そんな時皆のを抜いてあげるんですか」
「とんでもないわ。私はそんな事しません。
中にはこっそり抜いてあげる人も有るらしいけどね」
私は色っぽい受け答えを期待していたのに、まじめな返事にがっかりすると同時に
心の奥底では、ほっとする複雑な気持ちがあった。
でも、真由美さんは職場の話をひとしきり話終えるとまた無言になった。
また何かしゃべらなければと、やきもきしながら歩いているうちに道路は山道にさしかかった。
頭上に樹木が天蓋の様に屋根を作っている腐葉土の坂道を登っている時に、
真由美さんがさすがに苦しいのか、ハーハーと息を弾ませだした。
私には真由美さんの喘ぎ声がセックスの時の喘ぎ声を゜連想゜させ、密かに興奮していた。
ついに遠見神社に着いた。
眼下に見下ろす深い藍色を湛えた鷹の洲瀬戸の流れとその向こうの島。
そして巨大な自然石で作られた日本海海戦の戦勝記念碑。
かつては鎖で囲まれていたが、戦時中の金属供出で取り外されて
砲弾型したセメント柱だけが台座の周囲に残っている。
非常に視界が開けた場所に残っているので、遠見神社の名前があるのだった。
「やっと着いたのね。四年前に必勝祈願にむらの人とのぼって以来よ」
巨大なしめ縄が飾られた拝殿の右側に杉木立に囲まれて雨戸を閉め切った
社務所とそれに付属して宮守りの生活のための住宅がある。目下一人暮らしの
宮守が入院中なので神社の境内には茶色の落ち葉が降り積もっている。
そして参堂の石畳の隙間からは雑草が若草色した刀のような葉を伸ばしている。
社務所横には幹周りが五メートルはある巨大な杉があり神木として幹にしめ縄が
張ってある。樹高が高いためによく雷が落ちるので有名な神木で、
幹に黒く炭化した箇所がある。
風雨に晒されて木目が浮き出た拝殿の柱や階段を見ながら、私と真由美さんは
神殿でかしわ手を打った。
「じゃあ、ここでお弁当にしましょうね」
真由美さんは記念碑の周囲の赤御影石が張られた高さ七十センチほどの台座の上に
シートの代用に持参した大風呂敷を二枚広げてそれぞれ足をぶらぶらさせて腰掛けた。
バスケットの中から三段重ねの重箱が現れた。
一段には巻き寿司と稲荷寿司が詰められ、あとの二段にはおかずに成る各種の
山海の食べ物がぎっしり詰まっていた。
「わあ、こんな御馳走を全部自分で作ってこられたのですか」
「そうよ。一部は昨日の晩から作ったのもあるのよ」
私はアルミの取り皿を手に真由美さん手作りのお弁当を食べた。
話題はもっぱら真由美さんの家庭のことや、職場である病院の話題ばかりで、
性に関する話題は出なかった。
山の下から吹き上げてくる風が、真由美さんの黄色のプリーツスカートをパアーッと
捲り上げた。ストッキングを穿かないナマ足の白い太腿が私の目に強烈に焼きついた。
あの太腿の更に奥には男性を快楽に導く魔法の肉筒が隠れているのだ。
真由美さんは顔を赤くして、慌てて膨れ上がったスカートを押さえた。
「いやな風・・・」
やがて食事が終わった。
真由美さんの魔法瓶のお茶を注いで呉れる手が何故か震えていた。
このまま食事が終わり、荷物を片付けて山を降りるのだろうか。
いやそうではあるまい。ほんとうは仲介をして呉れた三田さんが、
それとなく示唆して居た様に私とセックスしたいのに違い無かった。
だが男女の仲というものはセックスに入るきっかけを掴むのが難しいものだ。
特に相手をリードしなければいけない立場、すなわち年長者とか、男性とか、
デートを誘った者などは相手を性的な関係にどうやって誘い込むかに悩むものである。
「あのう・・・真由美さんにさっきから聞こう聞こうと思っていたのですけど、
どうして僕なんかをさそったのですか?」
真由美さんはポーッと赤くなり、直ぐには言葉が出なかった。
ちょつと照れた表情で、長い髪を手で撫でながら答えた。
「貞信さん、あなたが可愛いからよ。私の家は母と娘三人の家庭でしょ。
あなたみたいな弟が居ればなあと思ったのよ」
「真由美さんは一番上ですか」
「そうよ。二十二歳と十九歳の妹がいるわ」
そう答えて真由美さんはまたしばらく黙っていたが、
「平岡さんは若衆入りしたんでしょう。とってもお上手なんだってね。
三田さんが話してらしたわ」 と話題は唐突に核心に触れてきた。
私は真由美さんの家庭が女性ばかりの四人家族であることに興味を抱いた。
熟女の母親と三人の娘全てとの親子丼が出来るのではとちょっぴり期待したのだった。
「私は昨年秋にやっと女衆入りしたのよ。
でもそのあと、あまり男の人とお付き合いがないのよ。お願い、私を抱いてみて」
真由美さんは私と視線を合わせるのが恥ずかしいのか、
視線を下に向けて衝撃の告白をした。
「ここで、ですか」
私はカーッと熱くなり、のどに粘っこいものが絡み付いて、かすれた声しか出なかった。
「社務所の中に行きましょう」
「えっ、社務所ですか」
「正確には社務所ではなく、その横に宮守さんの為の小さな家があるでしょう。そこで・・・」
今までナイーブで躊躇い勝ちだった真由美さんが女性としていささか恥ずかしい
要求というか意思を伝える局面をクリアした安堵感から表情が柔らかくなった。
そして私を見詰める目に年上女性として、
この局面をリードしなければという気持ちを回復したようであった。
「鍵がかかってるのではないですか」
「大丈夫よ。三田さんがうちの病院に入院している宮守りのおばちゃんから
休憩のために特別に鍵を借りてくださったのよ・・・」
もうあとは言葉はいらなかった。
社務所に付属する住宅の裏口には、大きな南京錠がぶら下がり、
軒先にはクモが素をかけていた。
「わあ臭ァい」
鍵を開けて真っ先に入った真由美さんが鼻を押さえた。
かび臭い澱んだ空気が空気が鼻に突いたのだ。
直ぐの場所は土間に成っていて、土間の一隅がコンクリート張りになって水を使う台所と
風呂場があり、鉄製の手押しポンプがついていた。
井戸端には水運搬用の手桶が置かれていた。
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“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
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此処にはその中から選んだ
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の作品をまとめて見ました。
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