若衆入りの儀式。其の十一
三週間女衆宿に泊り込みでのホト親からの性技術研修を終えて、
三日間のお礼奉公をも済ませて自宅に戻った翌日は朝から我が家はごった返していた。
島の風習として若衆入りをはたした少年は家族、親戚、知人、そしてホト親を招いて、
大宴会を行うのだった。無論ホト親と私が上座である。
こればかりは一生に一度の晴れの儀式なので盛大に行うのだ。
一つには島中の女性に周知させる意味合いも含まれていた。
この若衆入りの儀式を済ませた男性は島に居る全ての未亡人と、女衆入りの
儀式を済ませた全ての独身女性と自由にセックス出来る権利が出来るのである。
ところが逆に、初物食いの好きな年増女性や若い女性の方から
若衆いりの新人には性交技術の腕前試しにデートの申し込みが殺到するのである。
私は帰宅して翌日には近所の農家の後家さん、
三日目には同級生の女の子、一週間目には五十八歳になる漁師の後家さんと
その娘の二十九歳に成る行かず後家の二人を同じ布団の中で親子丼にするという
実においしい性体験を済ませていた。
そして二週間目の日曜日に、二十四歳になる風待岬病院の看護婦
沖田真由美さんから、南風岳の中腹にある遠見神社へのデートの誘いを受けた。
ホト親の三田さんの紹介である。
相手の真由美さんは昨年秋に女衆入りしたばかりなので、
まだ性経験は浅い女の子だとの事であった。通常は女衆入りの手ほどきしたマラ親が、
儀式が済んだ後も一年間は最低月一回程度はアフターケアーを受け持つのだが、
真由美さんの場合は、そのマラ親が出漁中に浮遊魚雷に触れて死亡したのである。
デートの橋渡し役の三田さんの話では、真由美さんは年上だけれども、
ひっこみ思案な女性なので、マラ親以外の男性とまだセックス体験が無いという。
そこで真由美さんがはっきりその意思表示しないときは、男性のあなたの方から
それとなくセックスする方向に話題を持って行ってあげてね、と言う事だった。
デートの際の食べ物などは全部真由美さんの方で用意するので、
貴方は身体一つで待ち合わせ場所に、来てくれれば良いというのである。
**
女性の方からこのように申し出るということは、男性はペニス一本持って来てくれたら良いわ、
と言うつまりセックスOKの遠回しな意思表示だと、
三田さんから若衆入りの時に教わったのを密かに私は思い出していた。
男性の数が極端に少ない為に、年頃の女性はセックス経験を増やすため、
通常なら対象しする年上か同年の男性が殆ど居ないので、
年下の男性を青田刈りに走るのである。
私に関する情報も、たぶん三田さんから若い看護婦の間に伝えられたのに違いなかった。
真由美さんとのデートの日は私は早起きした。
どんな顔の女の子なのかは会って見ないと判らないけど、
気に入らなければ一度きりで付き合いを辞めてもいいのである。
またこの島では肉体関係を持つことが即座に結婚に結びつくものではなく、
都会で映画館に行ったり喫茶店に行く程度のあくまで男女交際の一環であった。
私はポケットに万一に備えてコンドームを忘れずに数個忍ばせた。
元来は女性が用意するものである。
空は雲一つ無く晴れていて、三月というのに五月並の暖かさであった。
耕かされたばかりの畑のふかふかした黒い土の向こうに、霞に青く煙る山稜が見える。
午前十一時十分、待ち合わせ場所の彼岸橋の袂で待っていると、
細面で上品で小さな口、ポニーテールの髪をした清楚なイメージの真由美さんが、
クリーム色のセーターに黄色のプリーッスカートを穿いてゴムの運動靴姿で、
恥ずかしそうに俯き加減で足早にやってきた。右手にはバスケットを下げていた。
たぶんその中には飲み物やお弁当やおやつをいれているはずであった。
「平岡さん、ごめんなさい。遅くなって・・・」
真由美さんは十分の遅刻をわびた。
「真由美さん、デートに誘って呉れてありがとうございます」
十七歳の私と二十四歳の真由美さんと言うのは、
他人の目には弟と姉の様なものである。二人は山の方へ向かって歩き出した。
やはり年齢が離れていると、どのような話題を話して良い物か迷うものである。
三十分ぐらい二人とも無言の侭黙々と歩いていた。
心の中では何か早く話題を見つけて楽しい雰囲気にしなければと言う思い出
一杯のはずであったが、特に年上でわざわざデートを誘った真由美さんの方が
私より何か言わなければと強く思っていたはずである。
それに私も、真由美さんの今日のデートの密かな
最終目的にも探りを入れる必要が有った。
暖流のために島では本土より少し早く春が訪れる。今日は風も無く穏やかで
うららかな光が山へ向かう赤土の小道や、白い大根の花咲く畑に降り注ぎ、
石垣の上では満開の桜、菜の花や蓮華が鮮やかな色彩を見せている。
「看護婦のお仕事、大変でしょう」
私は何とかしようと相手の仕事を話題に持ち出した。
「そうよ。大変なのよ。私達はお医者さんと患者さんの両方の小間使いなのよ」
真由美さんの口がややほぐれてきた。
「私のところは内科、外科、小児科、耳鼻科の何でも屋みたいな病院でしょう。
でも外科で入院している男の患者は我侭でね」
そう言って真由美さんは私を振り返ると、かすかに微笑んだ。
道路の右側に平行に海宝川がつきまとう。はるか彼方の照葉樹林のブナ林
を水源とする透明な川の水は川面に突き出した石にぶつかってはサイダーのような
泡を立てて流れていく。水はまだ冷たそうだった。
「どうして我侭なのですか」
「あなたに話していいものかしらね」
前を歩く真由美さんのスカートの裾が揺れるように心もゆれているのに相違なかった。
「僕はもう子供じゃ有りません。若衆入りもしているし・・・」
「外科の入院患者って、手足の怪我ってのが多いでしょう。
外科の患者はよくなりだしたら回復が早くてね、食欲はあるしとっても元気がいいの。
特に男の人ったら栄養ばかり取るので精力がつきすぎてあれが溜まるらしいの。
そうすると私達看護婦を呼んでとんでもない要求をするのよ」
道が狭いために私の前を歩く真由美さんの表情は見えない。
大自然の開放された環境と顔が見えない事が味方したか、
真由美さんは偶然、ちょっと下がかった話題に触れた。
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