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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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葬儀屋の女房。其の五

◇好きにせぇや◇
葬儀屋の女房12
ところで、芳江と関係を持って以来、
家業の売り上げ成績が見る見る上昇して行ったという事実がある。
確かに、是までは手書きの粗末なチラシしか打たなかったのを、
広告代理店に頼んで、良質な宣伝活動をスタートさせた結果なのかも知れないが、
私はそれだけではない様な気がしていた。

芳江にはアゲマン的な素質があるのではないか。私は日記と売上帳を見比べながら、
そんなふうに思った。そういう事実も、もしかすれば芳江を愛するようになった理由の
一つだったのかもしれない。

芳江のことを「芳江」と呼び捨てにする事が出来る様になった頃、
私は芳江との結婚を考えるようになった。
相手は人妻だと言うことは百も承知だ。しかし、そんな事は何の関係もない。
それに芳江をあの亭主から法律的にも無関係にすることが、
ひとつの愛情の証しなのではないか、そんなふうにも考えた。

その頃には芳江は、仕事場に息子の一也を連れてくるようになり、
和也も私になついていた。
休みの日には三人で遊園地へ行ったりするようにもなっていた。
端から見れば、幸せな家族そのものだ。芳江も徐々に明るさを取り戻し、
おとなしい一也も私の前ではやんちゃな子供になる。

フェンス越しに、園内を走る汽車に一人で乗り込んだ一也に手を振ったあと、
私は芳江に「結婚せぇへんか」と言った。
芳江は小さくなっていく汽車を目で追いながら、
「うれしいわ、でも、あの人、離婚なんてしてくれへん。
 うちを死ぬまで苦しめるつもりや」唇を噛んで、そう言った。

「・・・うち、修さんと一緒になりたい」
芳江は私の胸に顔をうずめて、まわりに憚ることなく泣いていた。
二週目を廻ってきた汽車から一也が、
「おかあちゃーん」と大きく手を振っている。
芳江は涙を拭いて笑顔をつくり、一也に手を振り返した。

芳江の言ったとおり、あの亭主は離婚には応じないだろう。
それならば裁判を起こすしかない。あいつの、日頃の芳江に対する態度からして、
裁判所は離婚を認めてくれるだろう。しかし、それには時間がかかる。
私は今すぐにでも芳江を妻に迎えたいのだ。
相手も人間だ。頭を下げてお願いすれば判って暮れる筈だ。
私はそんなふうに思うと、直談判をすべく亭主に会いに行く決意をした。

 
葬儀屋の女房13
私一人で行くつもりだったが、芳江も一緒に行くと言い張った。
「これは二人の問題なんやから」と、頑として譲らない。
見た目には気弱なタイプなのに、芯の強いところがあるのだ。

セミの声がうるさいぐらいに町中に響き渡っていた、。夏の暑い日。
私は芳江と共に亭主の住んでいる安アパートに向かった。
廊下には一也の玩具がホコリまみれになって放置されていた。
芳江は其れを手にし、優しくホコリを払った。

ドアを叩くと、中から「誰じゃ」とドスの利いた声がした。
ドアを開けると、亭主は上半身裸で四畳半の真ん中に胡坐をかき、
一升瓶を抱えていた。顔はすでに赤い。

台所には油まみれの食器が散乱している。部屋はほこりっぽく、
壁にはカビがわがもの顔で繁殖していた。
私たちの関係はすでに亭主の知るところであり、私たちの訪問にも身動きひとつせず、
ギロリと私たちを睨みつけるだけだった。

緊張が体内を走る。額から生温かい汗が垂れ落ちる。芳江が私を見た。
私は頷くと部屋にあがり、亭主の前で土下座をした。
「なんの真似や」
亭主がフンと鼻をならす。私は額を畳にこすり付けて訴えた。
「芳江さんを譲ってほしい」
返事はない。私は頭を下げ続けた。隣で芳江も頭を下げている。
「この人と一緒になりたい。お願い、離婚して」と、必死に訴えている。

案の定、亭主は首を縦には振らなかった。
そればかりか、私を殴りつけてきた。芳江が止めに入ったが、
私は亭主の気の済む様にさせるつもりだった。
腕の一本ぐらい折られる覚悟で来たのだ。
私は殴られ蹴られながらも、頭を下げ続けた。
「芳江さんを譲ってください」と、畳に額をこすり続けた。

殴り疲れたのだろうか、亭主はチッと舌打ちをすると、どかっとあぐらをかいた。
そして、一升瓶を垂直に立てて、残っていた酒をすべて飲み干すと、
「好きにせぇや」と臭い息を吐き出して言った。

私が慰謝料を支払うという条件で、亭主は離婚を承諾した。
そして私たちの前で離婚届にサインをしたのだ。

◇幸福への再出発◇
葬儀屋の女房14
それから半年後、一也を連れて私達は区役所に婚姻届を提出した。
そのあと、事務所では私たちを待っていたのか、私の両親と芳江の母親、
そして社員たちが拍手で迎えてくれた。

手製の紙吹雪が舞う中、私は一也を抱き上げ、芳江と指輪の交換をした。
そして、一也に目隠しをして見えないように二人はキスをした。
芳江のおふくろさんは、目にハンカチを当てながら終始にこやかにしていたが、
早くに亡くなったと言う親父さんも墓下で喜んで呉れている事だろう。

晴れて葬儀屋の女房となった芳江だったが、最初のうちは、
あの亭主が難癖をつけに事務所にやって来るのではないかと、怯える事が有った。
しつこい亭主のことだ、絶対にないとは言えない。
私も一、二度はそういう事があるだろうと覚悟をしていたが、それも杞憂に終わった。
一度、様子を見ようと、あのアパートを訪ねてみたのだが、部屋はもぬけの空だった。

隣の人に聞くと、どうやらホステスらしき派手な女が暫く通っていたらしいが、
ある日突然、二人でどこかへ行ってしまったと言う。そのことを芳江に告げると、
芳江は目尻にシワを寄せてニコリと笑った。久しぶりに見る笑顔だった。

あれから二十数年、芳江は男と女の子を産んでくれた。
次男は大学生、長女は高校生になった。一也は大学の経済学部を卒業し、
一流と呼ばれる商社に勤めていたが、先日、会社を辞めた。
私の跡を継ぐためだ。無理じいをしたわけではない。
一也が自らの意思で家業を手伝うと言ってくれたのだ。
私は真っ先に親父の墓でその事を報告した。親父も喜んでくれいる事だろう。

芳江はよく笑う女になった。昔の芳江が嘘のようによく笑う。
そして、子供を沢山生んだ為か体形に昔の面影はない、乳房もAカップだったが、
今ではCカップだ。実に揉み応えが良い。もう指が肋骨に達することもない。

もちろん家業の切り盛りも実に的確にこなしてくれ、年商も落ちたことはない。
アゲマンであることは疑いのない事実だった。

幸せに縁遠い人生を送って芳江は、もういない。
ここに居るのは明るくて笑顔のよく似合う肝っ玉かあさんである。
今日も忙しなく、事務所の中を駆けずり回っては、明るさを振りまきながら、
芳江は、社員たちに笑顔で激を飛ばしている。
END


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アヤメ草

Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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