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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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葬儀屋の女房。其の四

◇亭主に殴られた◇
葬儀屋の女房10
それから数日後、事務所に来た芳江の右目がひどく腫れていた。
「どうしたんや」と聞いても、「転んだ」としか答えない。嘘をついているのは明らかだった。
しつこ聞くのもはばかれたので「気ぃつけや」と声をかけただけで仕事に就いた。
と、障子の向こうからおふくろの声が聞こえてきた。
「また亭主に殴られたんか」と言っている。

私は障子に耳を押し当てた。しくしくと嗚咽を漏らすこえがする。芳江だった。
「絶対に家にいれたらあかん。な、尋ねて来ても家に入れたらあかんで。ええな」
おふくろは何度も念を押すと、仕事に戻ったが、私はおふくろをつかまえて、
今の会話の意味を詳しく聞き出してみた。

おふくろが言うには、芳江の亭主はひどく暴力を振るう男で、芳江を毎晩毎晩殴っていたという。
芳江は我慢し続けていたが、このままでは殺されると思い、息子を連れて実家へ逃げた。
母親に息子を預け、自分は生活費を稼ぐために、いろいろツテを頼りに働き口を探し、
最終的に私の店にたどり着いたと言う事だった。

実家に逃げたことで、芳江は静かな暮らしを手に入れることが出来たと安心していたようだが、
亭主という奴がことのほかしつこい男で、酒をすっ食らっては、
実家を訪れ、芳江を奪い返そうとするらしい。もちろん芳江の母親は必死に食い止める。
が、土木作業員をしている亭主の前では抵抗すら出来なかった。

亭主は母親を追いやり、奥に隠れている芳江を引っ張り出して、
「なんで、逃げるんや」と、殴りつける。そして、芳江は息子と共に家に引き戻された。
芳江も負けてはいなかった。亭主のスキをついて、また家出をする。
しばらくは母親に迷惑がかかるといけないと、安ホテルに泊まっていたが、
カネもそんなには続かない。結局は実家へと舞い戻り、再び亭主に見つかってしまう。
そんなことの繰り返しだったようだ。

芳江の暗い影はそんな不幸な状況から生まれたものだった。
芳江が飲めない酒をかっ食らっていたのも、そんないざこざでストレスが
溜まりに溜まっていたからなのであった。私と関係を持ったのも、
亭主でない男に優しくされたいという思いがあったからだった。

 
葬儀屋の女房11
そんな芳江のことを知って、私の胸は痛んだ。しかし、ただの遊び相手だ。
なのに、なぜ胸が痛むのか。自問自答してみたが、理由は判らなかった。
ただ胸の痛みは一向に消えなかった。

その答えは、芳江が無断欠勤したときに初めてわかった。
その日、定刻に成っても芳江の姿が見えなかった。私は気が気でなかった。
おふくろが彼女の実家に連絡を入れると、
芳江の母親が泣きながら、芳江が亭主に連れ戻されたことを告げた。

そのことを聞いて私の胸は張り裂けそうなほど痛んだ。亭主に対して殺意すら覚えた。
気が付いた時、私は事務所を飛び出し、亭主のアパートへ向かっていた。
走りながら私は思った。
こうして今、走っているのは、芳江のことを愛しているからなのだと。
胸が痛むのは愛ゆえなのだ。 

角を曲がったところで、向こうから背後を盛んに気にしながら、
早足で駆けてくる女がいた。女の手には小さな子供の手がしっかりと握られている。
“芳江だ”
私は芳江に抱き付いていった。芳江はゼェゼェと息を切らし、
「遅刻してすんません」と頭を下げた。息子の一也も一緒に頭を下げている。

一度は家に連れ戻されたが、スキをついて逃げてきたという。
私はとにかく芳江と一也を庇う様にして事務所につれていった。

私は芳江の事を愛していた。しかし、なぜ愛するようになったのか。
美人でもなく、明るくもなく、その上、体もみすぼらしいのに、なぜだろう。
いろいろと考えても、よくわからない。
ひとつ言える事は、性器の相性がこの上なく良いと言うことだが、
そんなことが愛につながるのかどうか、私にはわからなかった。

もしかして、薄幸の女を救ってやりたいという正義感が、
愛を増幅させるのに一役買っていたのかもしれない。
  1. 妻を語る
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アヤメ草

Author:アヤメ草
FC2ブログへようこそ!管理人の
アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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