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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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我が妻を語る。其の二

◇初めて見た男女の交接◇
元売春婦の妻04
生き残って復員した者が、戦死した戦友の家を訪ねて、
その死を語って聞かせるのは当時よくあったことだ。
しかし男には、他にも目的があった。
戦友と称していかに父が勇敢だったかを滔々と話してくれたのはいいが、
数日間も居座り続けたあげく、家族の留守を見計らって、
戦争未亡人の母を陵辱したのだ。

母は男が姿をくらませた後、
その事を痛苦に納屋で首を吊って非業の死を遂げてしまった。
祖父と私を泥沼のような混沌とした時代にのこし、
自ら先に死を選んでしまった。軍人の妻としての操が死を選ばせたのかも知れないが、
死んでも死に切れなかったのだろう。その死に顔は恥辱と恨みに満ちていた。

私はその姿を目の当たりにした時、自分の体が切り刻まれるような痛みの中で、
七転八倒しながら悶え狂った。涙は枯れ、声すらもでない。
世界の終わりすら見た思いがした。

それからの私は、生きるためにどんなことでもしてきた。
私ばかりではない。敗戦を境にして、世の中の常識と呼ばれていた常識が、
あっさりと引っくり返ったのだ。誰もが正常な気持ちでいられなくなっていた。

特攻崩れの叔父が家に戻ったのは、母が死んで間もなくのことだった。
叔父は弱冠19歳だったが、死ぬことを義務付けられていながら生き残ったせいか、
それを喜ぶどころか、まるで死に場所を探しているかのように、気持ちが荒んでいた。

連日何もするでもなくボーッと過ごし、カストリ焼酎を飲んでは、
やり場のない気持ちをぶつけていた。
そして、どこで拾って来たのか、薄汚れた女を家に連れ込んで、
憑かれたかのようにセックスに耽っているのだった。

私が男女の交接を見たのは、その時が初めてだった。
叔父は母が首を吊った納屋に、女を連れ込んでいた。
二人とも筵の上で素っ裸になり、白蛇のように絡み合ったまま、
汗まみれとなって激しく蠢いている。

叔父の腹の上に跨って体を繋いだ女の背中が、時折、青竹のようにしなり、
細い糸を引く切なげな声が「アア~ッ、アア~ン」と空気を震わせ、
まるで生きていることを確認しているような激しい交接だった。
 
◇運が悪かっただけよ◇
元売春婦の妻05
私が初めて女を知ることになったのは15の時であった。
その頃の私は学校にも行かず、悪友の坂井と二人で、泥棒、恐喝で生活を凌いでいた。
もちろん、祖父の居る村では大人しくしていて、もっぱら稼ぎの場所は、
一時間ほど汽車で行った先の新潟駅周辺となっていた。

駅は親の居ない戦争孤児たちの溜まり場になっていた。
もっとも彼らを収容する施設は設けられている。しかし、孤児狩りの手から逃れ、
健気に(?)に無頼を生きている者も少なくはなかった。

私と坂井はそうした彼らと合流して、愚連隊まがいの事をしていた。
だが、そんな小さなグループは、他に幾つもある。縄張り争いの小競り合いは
日常茶飯事で、当然のようにヤクザからも目をつけられた。
警察の目をそらす為に、ヤクザは子供達を盾替わりに使って、
麻薬(ヒロポン)の密売をさせようとしていたのだ。

私はそれを断った為に、ヤクザから太股を刺されたことがある。
命までは盗らないと言う、ヤクザらしい恫喝のやり方だった。
そんな私を助けて呉れたのが、後に私の妻に成る売春婦をしていた咲子だった。
当時咲子は20歳になったかならないぐらいで、町外れを流れる信濃川のほとりに、
ズラッと並んだバラック小屋の一軒に、一人で住んでいた。

気を失って倒れていた私を見つけて、小屋に連れて来たのだと言う。
私は消毒のために傷口にかけられた焼酎の傷みで、初めて我に返った。
体がひどく熱をもっていた。立ち上がろうにも、体を少し動かしただけで、
錐で抉られたような激痛が走った。
「動ける訳がないわ。いいから安心して眠りなさい」
咲子は裸電球の明かりを消した。

発熱と痛みは三日ほど続いていたが、その間、咲子は仕事にも行かず、
親身の看病をしてくれた。
その甲斐あって、ようやく私は体を布団の上に起こせるまでに快復した。

「着ている物、全部脱いで・・・汚れたものを洗濯しなくちゃ」
そんな事を咲子に言われても、着替えはなかった。どうしょうかと迷っていると、
咲子はどこで手に入れてきたのか、風呂敷包みの中から衣類を一揃え取り出してきて、
わざとらしく乱暴に放ってよこした。
元売春婦の妻06
「・・・!?」
「弟の物だけどあなたに合うかしら、合えばいいけど・・・
 その前に体を綺麗にしなくちゃ、もう何日もお風呂に入ってないでしょ」
咲子は洗面器を持つと、川原に水汲みに行った。
残された私は、パンツを脱いで急いで替わりの物と穿き替えた。

私がそれまで穿いていたパンツは、血も混じってかなり汚れている。
それを咲子に見られていたかと思うと、今更のように突然恥ずかしくなり、
布団の下に隠してしまった。

「なによ。体を拭いてないのに、もう穿き替えちゃったの。
 もう一度脱がなきゃ駄目よ」
「いいんです」
「良くないわ、ばい菌でも入って化膿したらどうするの。
 せっかく看病してあげたのに何にもならないじゃない」
「・・・!?」
「いいから、横になりなさい」

すっかり姉が弟をたしなめる様な口調になっていた。
私はそれ以上逆らえず、布団の上に仰向けになった。
咲子は洗面器に入った水で手拭いを揉み出すと、それを硬く絞ってから
胸を拭いて呉れた。冷たくてとても気持ちがいい。

「どうしてオレなんかに、親切にして呉れるんですか?」
「親切?どうしてかしら。あなたのようなヤンチャ坊主を放って置けないのかも・・・
 弟もそうだったから」
「弟さんは?」
「・・・死んだわ、あなたみたいに刺されて」

チョッとショックだったが、どう返事をすれば良いのか分からずにいた。
「なにも気にしないで・・・弟は運が悪かっただけなのよ」
咲子は胸から腹部へと拭き下ろしながら、ポッリと言った。
弟の死を、単に運が悪かったと片付けるしかない切なさが、
痛いほど伝わってきた。
  1. 妻を語る
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アヤメ草

Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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