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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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生まれ変わっても結婚したい。其の四

~千鶴を僕のお嫁さんに下さい~
林檎姫4-1
バスを降りて、千鶴と私はすぐに診療所に駆けつけた。千鶴の父親は思ったより症状が
軽いものだった。一過性の狭心症で、一週間ほどで退院できるという。突然倒れて
苦しみ出したために、慌てた家族が万が一の事を考えて、電報を打ったのだという。

ベッドに上半身を起こした千鶴の父親は、頭頂部まで禿げ上がり、顔は千鶴と
一卵性双生児のようによく似ていた。苦労人の良さが滲み出ていた。

最初は私が千鶴と一緒に行った事で、千鶴の父親は随分と驚いたようだ。
しかし、千鶴は私の事を手紙に書いて、頻繁に知らせていたそうで、すぐに頭を
布団に擦り付けるようにして感謝の意を表した。恐縮の限りこの上も無い。
そればかりか、人の良さそうな人柄を前にして、会うまでの緊張が緩んだのか、
「千鶴さんを・・・ボクのお嫁さんに下さい」
と、自分でも呆然とするほど、あっさりと言ってしまったのだ。

父親も千鶴も、一瞬、何が起きたのか理解出来なかったようだ。
千鶴の父親はポカンと口を開け、千鶴は大きな目玉をキョトンとさせていた。
「千鶴さんを必ず幸せにしますから・・・ボクに下さい」

千鶴の顔がみるみるうちに紅潮した。恥ずかしそうに背中を向けた。
その肩が、こみ上げる感情を抑え切れず、小刻みに震えていた。
それを見た千鶴の父親は、やがて朴訥に話し始めた。

「この子には教育らしいものは、何もさせてあげられませんでした。
 子供の頃から兄弟たちの母親代わりをさせ、
 東京に行ってからも仕送りを欠かさず送ってくれて・・・
 これも私が不甲斐ないばかりに申し訳のない事をしてしまった。
 吉岡さん、千鶴は本当にいい子です。
 どうか、どうか幸せにしてあげてやって下さい」
千鶴の父親のくちゃくちゃになった顔がボヤけて見え、私は只何度も何度も頷いていた。

一時間ほどで診療所を私達は出た。
郵便局を西に折れて、青々と稲の伸びた田圃の中の道を行く、
行く先に小高い山があり、一塊の集落が裾野に広がっている。
赤や黄色の旗が風に翻る神社から、北に五軒目の杉林に囲まれた家が、
千鶴の生まれ育った家だと言う。家はやたらと大きくて、
東京では既に見られなくなった茅葺屋根の農家だった。


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林檎姫4-2
千鶴は診療所を出てから、殆ど口を閉ざしていた。千鶴の想いを無視して、
彼女の父親に話してしまったことで、腹を立てているのかも知れない。
「ごめんな。千鶴のお父さんの顔を見ていたら、
 言わなければならないって思ったんだ。怒ってるの?」
「怒ってなんかいないわ。ただ、ビックリして、まだドキドキしてるの」
「千鶴、俺と結婚してくれるよな」
「そう言う事は、私に最初に言ってくれるものよ。ボン・・・許してあげる。
 そのかわり、もう一度大きな声で言って!」

広大な田圃の中だ。誰にも遠慮はいらない。私は千鶴の家のある山に向かって、
大声で叫んだ。
「千鶴ゥ、オレとォ、結婚してくれぇ~~」
木霊と、機嫌を直した千鶴の爽やかな笑い声が重なりあった。

家では母親と五人の弟妹たちがまっていた。母親は四十代半ばだろうが、
一年中田圃や畑を土虫のように這い回っているせいか、やや腰が曲がり、
実際の年齢より老けて見えた。千鶴の弟妹たちは中学三年生の長男を筆頭に、
年子を含め、下に小学二年生の少女がいる。ズラッと整列した様は、見事なものだ。

その夜、私と千鶴は家族の歓待を受けた。
料理一つ一つに、母親の真心が込められていた。
幼い弟妹たちは盆と正月が一度期に来たかのように、はしゃぎまわっていた。
末の妹は千鶴の膝の上に乗ったまま離れようとしなかった。

「奥に布団が敷いてありますから」
一番風呂を使わせて貰った後、千鶴の母親に案内されて奥の間に行く。
蚊帳が吊られて、蚊取り線香が焚かれていた。蚊帳の中には布団が二組、
申し訳程度に離してしかれてあった。診療所に夕飯を届けに行った際、
父親から全てを聞かされた母親が、気を効かせたのだろう。
まだ、足入り婚という風習が各地に残っていた時代だった。
  1. 妻を語る
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アヤメ草

Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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