田舎から来た娘。其の四
~女体の味~
二日後、母が帰ってきた。
父と何事か相談した後、翌日の夜に兄夫婦も家に呼び、家族会議になった。
「君恵を世田谷の高校に転校させて、卒業するまで家に同居させるから、
お前達も宜しく頼むよ」
父の発言だけで終わる家族会議だった。
「なんだ、鶴の一声かよ」
兄が笑い、義姉さんも笑った。私もその決定が嬉しかった。泣きじゃくるのは、
君恵一人で、そのすすり泣きが妙に我が家をほのぼのとした雰囲気にしてくれた。
田舎での詳細は判らない。だが、母も父も君恵の義母に対して怒っていた。
それがこの結果だとは想像出来た。
君恵には階段横の四畳半が与えられ、
父が君恵の新しい机を三軒茶屋で買ってきた。
母も自分の衣服を整理して空きタンスを作ったり、
義姉も若い頃の服を持ち込んだり、
私を一人蚊帳の外にして、何だかんだと我が一族は嬉しそうだった。
四月の末から、君恵は世田谷の某高校の二年生として通い始めた。
地方からの同年級の転校には色々と問題があったようだが、
役所勤めの父の地位と信用がものを言ったのだろう。
これで今度は二年間、再び君恵は我が家に同居する事に成ったのである。
だが、もう彼女は幼い子供ではない。
前同様に、私を『ちい兄ちゃん』と呼ぶ君枝だが、
私達は距離を置いて暮らしていた。
それを意識させたのは母だった。君恵の部屋をドア扉に変えて、
鍵を取り付けたのである。二階の兄の部屋を使う私が、
常に横の階段を昇り降りするからだった。
「司朗、君恵はお前の妹なんだからね、間違いを犯したら承知しないよ!」
私は母に、そんなクギまで深々と刺されていた。
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七月。私に恋人が出来た。
大学近くの喫茶店のウェイトレスだった。彼女はアルバイトで勤め始めたばかり。
同年とは思えぬほど初々しくて、君恵よりはるかに美人の娘だった。
彼女は当時のロカビリー旋風の渦中のスター、平尾昌章の大ファンで、私はその月に
発売されたばかりの彼の「星は何でも知っている」のシングルレコードをプレゼントして、
その心を射止めたのである。
夏休みに入り、私は彼女と湘南海岸へ海水浴デートし、
夜の浜辺で初めてキスの甘美さを知った。女性の乳房の妖美さ、性器の温かく
柔らかな襞の感触を指が知ったのも、その夜のことだった。
だが当時の女性は身が堅い。中々肉体関係まで進まず、私は彼女とのセックスを
想い描いては自室で自慰を繰り返し、悶々とした日々を過ごしていた。
九月二十五日。接近する台風の余波で、昨日から雨が降り続いていたが、
名古屋に住む父の兄の家で行われる、祖父の三回忌法要に列席する為に
二泊の予定で、午後から両親が出掛ける事になった。
「ちゃんと毎晩鍵を掛けて寝るのよ、司朗は色気付いていて危ないからね!」
登校する君恵を玄関で見送り、母が笑いながら言う。
「冗談じゃないよ、俺には彼女がいるんだからね!」
同じ玄関で雨靴を履いていた私は、口を尖らせた。
「じゃあ、早く結婚しろ!お前が独り身のままだと、心配が絶えない」
茶の間で新聞から眼を離した父まで、真面目な顔で声を飛ばしてくる。
「はいはい、妹の君恵には手をだしませんよ、
俺はそれほど女性に不自由してませんからね!」
私は勢い良く傘を広げた。君恵の姿は激しい雨のベールの奥に、もう消えていた。
二十六日。後に狩野川台風と呼ばれる事に成る二十二号台風が関東地方に
上陸するのが決定的になり、朝からそれらしい大雨になった。
私は大学を休み、其の当時は何処の家でも行ったように、
襲ってくる暴風雨に備えて、すべての窓や雨戸に木の板を斜交いに
クギで打ち付け、留守を預かる大黒柱の働きをすることにした。
登校した君恵も早めに帰宅し、家の周囲の植木鉢を片付けたり、
ガラス窓の裏側に新聞紙を張ったり、結構小まめに働いた。
夜。風雨が激しくなった。我が家は戦災を逃れた古い家だ。
風に窓や雨戸が鳴り、揺れているから柱もきしむ。
二階の私の部屋では雨漏りも始まった。
洗面器をその滴の下に置き、両親の部屋で寝る事にして、
私は布団を抱えて階下に降りた。
其の足音で君恵が部屋から出て来た。
「何だか怖いから、ねぇ、ちい兄ちゃんの隣りで寝ちゃ、だめ?」
臆病者めと笑った時停電になった。
ロウソクを灯し、私達は並べて六畳間に布団を敷く。
間は少し離していたが、今夜は夫婦同然に並んで寝る事に成る。
私の胸は妙に騒いだ。
二日後、母が帰ってきた。
父と何事か相談した後、翌日の夜に兄夫婦も家に呼び、家族会議になった。
「君恵を世田谷の高校に転校させて、卒業するまで家に同居させるから、
お前達も宜しく頼むよ」
父の発言だけで終わる家族会議だった。
「なんだ、鶴の一声かよ」
兄が笑い、義姉さんも笑った。私もその決定が嬉しかった。泣きじゃくるのは、
君恵一人で、そのすすり泣きが妙に我が家をほのぼのとした雰囲気にしてくれた。
田舎での詳細は判らない。だが、母も父も君恵の義母に対して怒っていた。
それがこの結果だとは想像出来た。
君恵には階段横の四畳半が与えられ、
父が君恵の新しい机を三軒茶屋で買ってきた。
母も自分の衣服を整理して空きタンスを作ったり、
義姉も若い頃の服を持ち込んだり、
私を一人蚊帳の外にして、何だかんだと我が一族は嬉しそうだった。
四月の末から、君恵は世田谷の某高校の二年生として通い始めた。
地方からの同年級の転校には色々と問題があったようだが、
役所勤めの父の地位と信用がものを言ったのだろう。
これで今度は二年間、再び君恵は我が家に同居する事に成ったのである。
だが、もう彼女は幼い子供ではない。
前同様に、私を『ちい兄ちゃん』と呼ぶ君枝だが、
私達は距離を置いて暮らしていた。
それを意識させたのは母だった。君恵の部屋をドア扉に変えて、
鍵を取り付けたのである。二階の兄の部屋を使う私が、
常に横の階段を昇り降りするからだった。
「司朗、君恵はお前の妹なんだからね、間違いを犯したら承知しないよ!」
私は母に、そんなクギまで深々と刺されていた。
にほんブログ村
七月。私に恋人が出来た。
大学近くの喫茶店のウェイトレスだった。彼女はアルバイトで勤め始めたばかり。
同年とは思えぬほど初々しくて、君恵よりはるかに美人の娘だった。
彼女は当時のロカビリー旋風の渦中のスター、平尾昌章の大ファンで、私はその月に
発売されたばかりの彼の「星は何でも知っている」のシングルレコードをプレゼントして、
その心を射止めたのである。
夏休みに入り、私は彼女と湘南海岸へ海水浴デートし、
夜の浜辺で初めてキスの甘美さを知った。女性の乳房の妖美さ、性器の温かく
柔らかな襞の感触を指が知ったのも、その夜のことだった。
だが当時の女性は身が堅い。中々肉体関係まで進まず、私は彼女とのセックスを
想い描いては自室で自慰を繰り返し、悶々とした日々を過ごしていた。
九月二十五日。接近する台風の余波で、昨日から雨が降り続いていたが、
名古屋に住む父の兄の家で行われる、祖父の三回忌法要に列席する為に
二泊の予定で、午後から両親が出掛ける事になった。
「ちゃんと毎晩鍵を掛けて寝るのよ、司朗は色気付いていて危ないからね!」
登校する君恵を玄関で見送り、母が笑いながら言う。
「冗談じゃないよ、俺には彼女がいるんだからね!」
同じ玄関で雨靴を履いていた私は、口を尖らせた。
「じゃあ、早く結婚しろ!お前が独り身のままだと、心配が絶えない」
茶の間で新聞から眼を離した父まで、真面目な顔で声を飛ばしてくる。
「はいはい、妹の君恵には手をだしませんよ、
俺はそれほど女性に不自由してませんからね!」
私は勢い良く傘を広げた。君恵の姿は激しい雨のベールの奥に、もう消えていた。
二十六日。後に狩野川台風と呼ばれる事に成る二十二号台風が関東地方に
上陸するのが決定的になり、朝からそれらしい大雨になった。
私は大学を休み、其の当時は何処の家でも行ったように、
襲ってくる暴風雨に備えて、すべての窓や雨戸に木の板を斜交いに
クギで打ち付け、留守を預かる大黒柱の働きをすることにした。
登校した君恵も早めに帰宅し、家の周囲の植木鉢を片付けたり、
ガラス窓の裏側に新聞紙を張ったり、結構小まめに働いた。
夜。風雨が激しくなった。我が家は戦災を逃れた古い家だ。
風に窓や雨戸が鳴り、揺れているから柱もきしむ。
二階の私の部屋では雨漏りも始まった。
洗面器をその滴の下に置き、両親の部屋で寝る事にして、
私は布団を抱えて階下に降りた。
其の足音で君恵が部屋から出て来た。
「何だか怖いから、ねぇ、ちい兄ちゃんの隣りで寝ちゃ、だめ?」
臆病者めと笑った時停電になった。
ロウソクを灯し、私達は並べて六畳間に布団を敷く。
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私の胸は妙に騒いだ。
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プロフィール
Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。
私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
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