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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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田舎から来た娘。其の三

~少女の四年後~
07.jpg
その年に売春防止法が施行され、赤線の灯は消えた。
私は童貞のまま、T工業大学に入学した。
父と同じ公務員になる気は全くなく、技術屋になりたかった。

真面目さを要求される勤めは、私は全然向いていない男なのだ。
前年結婚して家を出た兄も常日頃から、
「お前はどう見ても職人向きだ」と断言していたほどの、
機械いじりが好きで、鉄道模型やラジオ作りに熱中していた。

六日の日曜日だった。
雨模様の早朝から、玉川に趣味の釣りに出掛けた父の留守を良いことに、
私は朝寝坊して茶の間で遅い朝食を食べていた。

片手に読む朝刊は、
前日五日に後楽園球場に鳴り物入りで初デビューした長嶋茂雄が。
国鉄の怪腕投手金田正一に四連続三振を喫したと報じている。
巨人ファンの私には、あまり面白くない新聞だった。

そのとき、玄関のガラス戸が開く音が聞こえた。訪なう声は女だった。
台所に居た母が玄関に向かい、
「あらいやだ、どうしたのいったい・・・!」驚きの声をあげた。
とたんに女の泣き声が響き、私も何事かと、玄関に出た。
セーラー服を着た少女が母の胸にすがって泣きじゃくっている。
たたきには大きなボストンバックが置いてある。とっさには誰か判らなかった。
「君恵、とにかく、とにかくあがんなさい、そんなに濡れちゃって・・・」
その言葉で君恵と初めて気付いたのだ。


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伏せて泣いてる顔はともかく、その体つきがまるで四年前と違っていた。
チビだった身長も伸びて、痩せ細っていた四肢の肉付きも豊かになっている。
茶の間でも君恵は泣き続けた。泣きながら方言丸出しで母に何かを訴え、
母も方言で事情を問いただし、何か諭している。

その意味も不明な東北弁を、私は関心して聞いていた。前回もそうだった。
小学生の君恵と母の会話は、まるで外国語のように私には思えていたのである。

やがて君恵が泣き止み、母が風呂場に連れて行った。
私は為すべくもなく、ただぼんやりと二人の愁嘆場を眺めていただけだ。

母が戻ってきて呟いた。
「君恵の家がヤケになったんだってさ」
「ヤケ・・・両親が、かい?」
「馬鹿、ヤケってのは火事のことだよ!」
母が笑った。でもその顔が歪む。
「でもねぇ、そっちのヤケの意味の方が、あの娘にはぴったりかも知れないね・・・」

母が卓袱台を前に座った。
「困ったよ、今井の叔父さんの家も、再婚したら何とかなると思ったんだけどねよ・・・」
溜め息を漏らして、独り言のように喋り始める。

今井の叔父さんと言っても、実際の肉親の叔父ではない。
母の兄嫁の縁者だが、母の実家の近所に住んでいたので、
地方独特の感覚で叔父さん、と呼んでいるだけらしい。

四年前の冬の農閑期に、その叔父さんが再婚したのだが、
新しい母親に上の子供達三人はすぐ懐いたのに、末娘の君恵がどうしても懐かない。
困った叔父さんが母の兄嫁に相談し、兄嫁は東京に居る義妹の母に手紙で相談を
持ちかけた。母は手紙の遣り取りでそれに答えた。

他人の飯を食えば、そこは義理でも母親と父親が住む家、
自分の家の方が良い、と君恵の気持ちも少しは変わるだろう、と。
「そうか、それであの夏休み・・・」
私はうなずいた。
「ところがね、それが裏目になってしまったんだよ・・・」
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風呂場の水音を伺いながら、母が言葉を続けた。
「帰郷した後も、東京の叔母さんの家に帰りたいと駄々を言ってね、
 両親と喧嘩ばかりしていたらしいんだよ・・・」
君恵は母の元に手紙を再々送ってきて、養女にしてくれ、と懇願もしたと言う。

母はそれを宥め、時には手紙で叱った事も有るらしい。そしてそれ以来、諦めたのか
便りは少なくなったのだが、一週間前、君恵の家は不審火で半焼してしまった。

「不審火?じゃあ、君恵が・・・」
「そうなんだ、いや君恵はやってないよ、義母が疑っているだけなんだよ、
 それも酷いのに、近所に言いふらしたらしいよ!」

風呂場の水音が止まり、母が口に指を当てて立ち上がった。
「私は今夜の夜行で田舎に行って来るよ、しばらく君恵を泊めるから、頼むよ司朗・・・」
母が出掛けねば済まない問題、と私も思った。

普段着に着替えて、君恵がしょんぼりと茶の間に現れた。
その姿や眼を伏せた顔が妙に哀れっぽく見えた。私は思わず、
「君恵は何も心配するな、俺の母さんにみんな任せて、
 お前は遠慮しないで前みたいにこの家にいればいいんだ!」
言ってしまった。

君恵の顔が歪んだ。私を見つめる眼から、涙がどっと溢れてくる。
しまった、訳知り顔に余計な台詞を吐いてしまった、と私は慌てて立ち上がった。
「俺、玉川で父さん探してくらあ!」

傘を手に家を飛び出した。雨の中、胸の奥は奇妙なほど温かくなって、
(あいつを養女にすればいいんだ、妹にすれば良い・・・)
私は胸の中で呟き続けた。
  1. 妻を語る
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アヤメ草

Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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