淪落主婦。其の六
◇惚れた弱み◇
親戚の結婚式、葬式、介護、使える口実は何でも使いました。
そうやって、岸に抱かれたくて東京へと足を運んでいましたが、
いかに人のいい夫とはいえ、そんな私に疑いを持ちはじめるのは時間の問題でした。
ある日、私の行動を不審に思った夫が、
「こんなことは言いたくないが、おまえ、男でもいるんじゃないか」
と、私を問い詰めたのです。私としても、もう一杯一杯の状態でした。
家族を欺いているのも自分の岸に対する思いを隠し続けるのも、
苦しくて仕方ない限界の状態だったのです。
思い余っていた私は、洗いざらい夫に告白し、
「ごめんなさい、あなた。私その人のことを思い切れないの!」
とうとう、家を出る決心をつけたのです。夫は呆気に取られているきりでした。
「もう、あなたや子供達と偽りの生活を続ける事は出来ないの。
子供達の事を宜しく頼みます。私を許してっ。私の事は、もう忘れて下さい!」
こうして私は着の身着のまま長年、住み慣れた家を出て、
岸の元へと出奔したのです。暑い夏の日、私が四十になる少し手前の事でした。
夫や子供には、私など死んでしまったと思って貰うしかありませんでした。
後ろめたさに戦きながらも、 私は岸の長屋に転がり込みました。
「まあ、是からは二人で楽しくやろうじゃないか」
岸は、家族を捨てた私を大歓迎してくれました。
私は離婚届けに署名捺印し、東京から夫の元へ郵送しました。
私には、もう帰るところはありませんでした。
(皆を不幸にしてまで、この人の所へ来たんだもの、何があっても岸に従いていくわ)
ある程度の苦労は、覚悟している積りでした。
しかし、やがて私は夫や子供達を不幸にした報いを受ける事となったのです。
一緒に暮らしてみて初めて、私は岸という男の本性を知ることになりました。
商社に勤めていると聞いていましたが、それは嘘のようでした。
岸は、定職を持っていなかったのです。
「僕は、誰かに使われるというのが性に合ってなくてね」
私が転がり込んでも、岸はまったく働こうとする気配がありませんでした。
それどころか、私が少しばかり持っていた所持金を当てにする始末でした。
(このままじゃ、飢え死にしてしまうわ。私が、働かなくちゃ)
私が仕事を探そうとすると、岸は待ってましたとばかりこう切り出しました。
「なら、いい店を知ってるぜ、僕の知り合いのスナックで働けよ」
イヤもオウも有りませんでした。岸に命じられるまま、私は場末のスナックで
ホステスをさせられるハメになってしまったのです。しかも、
「給料は、みんな僕に渡せ。其の中から、生活費を渡すからな」
私の給料は、すべて岸ににぎられてしまいました、生活費など雀の涙で、
あとはギャンブルやら何やら、彼が全部つまらない事に使ってしまうのです。
(岸が、こんなぐうたらな男だったなんて!取り柄と言えば、アレだけじゃないのっ)
本当に、私は盲目でした。岸に恋い焦がれる余り、彼の真の姿に気付かなかったのです。
彼の性戯にばかり心を奪われて、本当に大事なものが何か忘れ果てていたのです。
(でも、もう後の祭りだわ。私がバカだったのよ)
私が絶望するのに、時間は掛かりませんでした。
岸は口を開けば、私に稼げ働けと言うようになったのです。
ひどい男でしたが、岸は生まれ付いてのヒモの才能があったようです。
私はハッパを掛けられる一方で、夜の生活ではそれは私に尽くしてくれたのです。
何度、岸と別れ様かと思ったことか知れやしませんでした。
けれど、そのたびにカラダで懐柔されてしまう、情けない私だったのです。
まったく私の後半の人生は安手のメロドラマそのりものでした。
そして、私の人生に拭っても拭い切れない汚点がついたのも、この頃でした。
「参ったよ、淑子。麻雀で負けた借金が、どうにも払えなくなった」
ある日、岸が私に泣いてすがりついてきました。
「このままだと、怖ーいあんちゃん達になぶり殺されちまうかもしれない。
どうにかしてくれよ、淑子ォ」
「どうにかかって。これ以上、どう稼げばいいのよ?」
「ふふん、そんなの簡単じゃないか、客を取りゃいいんだよ」
ニヤニヤ笑う岸の首を絞めてやろうかと思いました。
「あのスナックは、もともと其の手の店なんだよ。
週に一回くらい客と寝てくれりゃ、すぐに返済できる。頼むよ!」
愕然としましたが、惚れた弱みはいかんともしがたいものです。
結局は、泣く泣く売春にまで手を染める事となってしまいました。
堕ちる所まで堕ちてしまった私でした。
「淑子ちゃんが相手をしてくれるなんて、夢みたいだな。三万でいいのかい」
初めて取った客は、私目当てに足繁くスナックへ通って来ていた隣町の工務店の社長でした。
いかにもスケベそうで、脂ぎったスダレ頭の社長には好意のこの字も持てませんでした。
しかし金払いだけは良い上客だったので、岸に社長と寝るよう強制されたのです。
(私に売春させるなんて、岸は本当に私を愛しているんだろうか)
安ホテルの一室でスケベ社長に肌を舐め回されながら、
私は当然の疑問に行き着きました。
(そんなはず無いわ。私は、岸の食い物にされているんだ)
それでなくとも、前々から感じていた疑問でした。
岸には他に女のいる気配もしましたし、
いくら頼んでも籍を入れて呉れませんでした。
何となく利用されているな、とは思っていました。
そこへ持ってきて売春まで強要するのですから、
これはもう真に私の事を好きだとは言えないでしょう。でも、
「あの岸って男は、あんたのヒモなのかい?こんな事まで淑子ちゃんにさせるなんて、
ひでぇ男じゃねぇか。あんな男とは別れて、オレの愛人になんなよ」
「うふふ、まあね、仕方ないのよ、そういう人だから」
スケベ社長に乳房をイヤと言うほど揉まれながらも、私は溜め息をつかずに居られませんでした。
岸のような男などには、サッサと見切りをつけるべきなのは良く判っています。
でも一度、肉体で深く結びついてしまうと男と女はそうそう簡単に切れる事は出来ないのです。
私だって何度、岸と別れようとしたかしれやしません。
けれどどうにもカラダが岸から離れられないのです。
私達は、すでに肉欲と情で結びついた腐れ縁でした。
「ああ、淑子ちゃんはこんな場末には勿体無いいい女だねえ。
昔は、いいところの奥さんだったって噂を聞いたことがあるが、ありゃあ本当だろうな」
社長の指がワレメを貫き、カラダと心に衝撃がはしりました。家庭を捨てて幾星霜、
岸と暮らしていても、別れた夫と子供のことを忘れた日は一日だってありませんでした。
「そんなこと、いまさらどうでもいい事よ。 それより、ねっ、社長、何もかも忘れさせてよ!」
苦い思い出が込み上がりそうになり、思わず私は社長の毛むくじゃらな胸板に
しがみついていました。すると社長はヤニ下がり、ツチノコのように勃起した股間を
私の手に握らせたのです。私はヤケになってずんぐりむっくりのペニスを擦りたてました。
「ああ、ステキよ、すごく逞しいわ、社長。早く、そのぶっといヤツを私にちょうだい!」
「意外と情熱的なんだねえ、淑子ちゃんは、うひひひひ」
社長は私の太腿を割ると、いそいそと腰を押し進めてきました。
社長が挿入してきた瞬間、
最低の女に成り下がってしまった悲しみがひしひしと迫ってきたのです。
「い、いい締まり加減だ。緩すぎずきつすぎず、何とも乙な味だよ」
社長はひとり悦に入って、腰を動かしはじめました。
そして、すぐにブタのように鼻息を荒げたかと思うと、呆気なく果ててしまったのです。
親戚の結婚式、葬式、介護、使える口実は何でも使いました。
そうやって、岸に抱かれたくて東京へと足を運んでいましたが、
いかに人のいい夫とはいえ、そんな私に疑いを持ちはじめるのは時間の問題でした。
ある日、私の行動を不審に思った夫が、
「こんなことは言いたくないが、おまえ、男でもいるんじゃないか」
と、私を問い詰めたのです。私としても、もう一杯一杯の状態でした。
家族を欺いているのも自分の岸に対する思いを隠し続けるのも、
苦しくて仕方ない限界の状態だったのです。
思い余っていた私は、洗いざらい夫に告白し、
「ごめんなさい、あなた。私その人のことを思い切れないの!」
とうとう、家を出る決心をつけたのです。夫は呆気に取られているきりでした。
「もう、あなたや子供達と偽りの生活を続ける事は出来ないの。
子供達の事を宜しく頼みます。私を許してっ。私の事は、もう忘れて下さい!」
こうして私は着の身着のまま長年、住み慣れた家を出て、
岸の元へと出奔したのです。暑い夏の日、私が四十になる少し手前の事でした。
夫や子供には、私など死んでしまったと思って貰うしかありませんでした。
後ろめたさに戦きながらも、 私は岸の長屋に転がり込みました。
「まあ、是からは二人で楽しくやろうじゃないか」
岸は、家族を捨てた私を大歓迎してくれました。
私は離婚届けに署名捺印し、東京から夫の元へ郵送しました。
私には、もう帰るところはありませんでした。
(皆を不幸にしてまで、この人の所へ来たんだもの、何があっても岸に従いていくわ)
ある程度の苦労は、覚悟している積りでした。
しかし、やがて私は夫や子供達を不幸にした報いを受ける事となったのです。
一緒に暮らしてみて初めて、私は岸という男の本性を知ることになりました。
商社に勤めていると聞いていましたが、それは嘘のようでした。
岸は、定職を持っていなかったのです。
「僕は、誰かに使われるというのが性に合ってなくてね」
私が転がり込んでも、岸はまったく働こうとする気配がありませんでした。
それどころか、私が少しばかり持っていた所持金を当てにする始末でした。
(このままじゃ、飢え死にしてしまうわ。私が、働かなくちゃ)
私が仕事を探そうとすると、岸は待ってましたとばかりこう切り出しました。
「なら、いい店を知ってるぜ、僕の知り合いのスナックで働けよ」
イヤもオウも有りませんでした。岸に命じられるまま、私は場末のスナックで
ホステスをさせられるハメになってしまったのです。しかも、
「給料は、みんな僕に渡せ。其の中から、生活費を渡すからな」
私の給料は、すべて岸ににぎられてしまいました、生活費など雀の涙で、
あとはギャンブルやら何やら、彼が全部つまらない事に使ってしまうのです。
(岸が、こんなぐうたらな男だったなんて!取り柄と言えば、アレだけじゃないのっ)
本当に、私は盲目でした。岸に恋い焦がれる余り、彼の真の姿に気付かなかったのです。
彼の性戯にばかり心を奪われて、本当に大事なものが何か忘れ果てていたのです。
(でも、もう後の祭りだわ。私がバカだったのよ)
私が絶望するのに、時間は掛かりませんでした。
岸は口を開けば、私に稼げ働けと言うようになったのです。
ひどい男でしたが、岸は生まれ付いてのヒモの才能があったようです。
私はハッパを掛けられる一方で、夜の生活ではそれは私に尽くしてくれたのです。
何度、岸と別れ様かと思ったことか知れやしませんでした。
けれど、そのたびにカラダで懐柔されてしまう、情けない私だったのです。
まったく私の後半の人生は安手のメロドラマそのりものでした。
そして、私の人生に拭っても拭い切れない汚点がついたのも、この頃でした。
「参ったよ、淑子。麻雀で負けた借金が、どうにも払えなくなった」
ある日、岸が私に泣いてすがりついてきました。
「このままだと、怖ーいあんちゃん達になぶり殺されちまうかもしれない。
どうにかしてくれよ、淑子ォ」
「どうにかかって。これ以上、どう稼げばいいのよ?」
「ふふん、そんなの簡単じゃないか、客を取りゃいいんだよ」
ニヤニヤ笑う岸の首を絞めてやろうかと思いました。
「あのスナックは、もともと其の手の店なんだよ。
週に一回くらい客と寝てくれりゃ、すぐに返済できる。頼むよ!」
愕然としましたが、惚れた弱みはいかんともしがたいものです。
結局は、泣く泣く売春にまで手を染める事となってしまいました。
堕ちる所まで堕ちてしまった私でした。
「淑子ちゃんが相手をしてくれるなんて、夢みたいだな。三万でいいのかい」
初めて取った客は、私目当てに足繁くスナックへ通って来ていた隣町の工務店の社長でした。
いかにもスケベそうで、脂ぎったスダレ頭の社長には好意のこの字も持てませんでした。
しかし金払いだけは良い上客だったので、岸に社長と寝るよう強制されたのです。
(私に売春させるなんて、岸は本当に私を愛しているんだろうか)
安ホテルの一室でスケベ社長に肌を舐め回されながら、
私は当然の疑問に行き着きました。
(そんなはず無いわ。私は、岸の食い物にされているんだ)
それでなくとも、前々から感じていた疑問でした。
岸には他に女のいる気配もしましたし、
いくら頼んでも籍を入れて呉れませんでした。
何となく利用されているな、とは思っていました。
そこへ持ってきて売春まで強要するのですから、
これはもう真に私の事を好きだとは言えないでしょう。でも、
「あの岸って男は、あんたのヒモなのかい?こんな事まで淑子ちゃんにさせるなんて、
ひでぇ男じゃねぇか。あんな男とは別れて、オレの愛人になんなよ」
「うふふ、まあね、仕方ないのよ、そういう人だから」
スケベ社長に乳房をイヤと言うほど揉まれながらも、私は溜め息をつかずに居られませんでした。
岸のような男などには、サッサと見切りをつけるべきなのは良く判っています。
でも一度、肉体で深く結びついてしまうと男と女はそうそう簡単に切れる事は出来ないのです。
私だって何度、岸と別れようとしたかしれやしません。
けれどどうにもカラダが岸から離れられないのです。
私達は、すでに肉欲と情で結びついた腐れ縁でした。
「ああ、淑子ちゃんはこんな場末には勿体無いいい女だねえ。
昔は、いいところの奥さんだったって噂を聞いたことがあるが、ありゃあ本当だろうな」
社長の指がワレメを貫き、カラダと心に衝撃がはしりました。家庭を捨てて幾星霜、
岸と暮らしていても、別れた夫と子供のことを忘れた日は一日だってありませんでした。
「そんなこと、いまさらどうでもいい事よ。 それより、ねっ、社長、何もかも忘れさせてよ!」
苦い思い出が込み上がりそうになり、思わず私は社長の毛むくじゃらな胸板に
しがみついていました。すると社長はヤニ下がり、ツチノコのように勃起した股間を
私の手に握らせたのです。私はヤケになってずんぐりむっくりのペニスを擦りたてました。
「ああ、ステキよ、すごく逞しいわ、社長。早く、そのぶっといヤツを私にちょうだい!」
「意外と情熱的なんだねえ、淑子ちゃんは、うひひひひ」
社長は私の太腿を割ると、いそいそと腰を押し進めてきました。
社長が挿入してきた瞬間、
最低の女に成り下がってしまった悲しみがひしひしと迫ってきたのです。
「い、いい締まり加減だ。緩すぎずきつすぎず、何とも乙な味だよ」
社長はひとり悦に入って、腰を動かしはじめました。
そして、すぐにブタのように鼻息を荒げたかと思うと、呆気なく果ててしまったのです。
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プロフィール
Author:アヤメ草
FC2ブログへようこそ!管理人の
アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。
私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。
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