平凡な主婦に何が起こったか?其の二
◇サヨナラ主婦稼業
数日後、恵美から連絡がありました。
新宿にあるヴェトナム料理の店で食事をしないか。と言う電話でした。
「出てらっしゃいよ。ヴェトナム料理って、いま流行っているのよ。
すごく美味しいんだから、私、六時頃には新宿へ着けると思うから、ねっ?」
どうせ主人は御前さま、上の子もサークル活動とやらで帰りは遅く、下の子も塾通いに
忙しい毎日です。一人ぼんやり家に居ても面白いはずも無く、私は恵美の誘いに
乗ることにしました。
「今夜高校時代のクラス会が新宿であるので帰りは遅くなります」と置手紙と夕食の
仕度をして出かけました。
「どう、なかなかイケるでしょう?低カロリーだから、いくら食べても心配ないわよ」
その夜、私は珍しくお洒落をしていました。久しぶりの外出で、化粧のノリもいいようでした。
めったに袖を通す事の無いシルク地のワンピースを着て、心が弾んでいました。
「だけど、今夜の佳代子はとても素敵よ。このあいだよりずっと色っぽいわ。
佳代子の色気は、すごく上品ね」
お洒落をしてきて良かった、と私はつくづく思いました。想像通り、恵美も華やかに着飾って
いたからです。女同士の見栄の張り合いと言うわけでは有りませんが、
私にも女としてのプライドくらいはあるのです。
「それにしても遅いわねぇ」
「えっ?他にどなたかいらっしゃるの?」
生春巻きヴェトナム風のお好み焼きなどを食べているうち、恵美が時計を見て呟きました。
「ごめんなさい。いい忘れていたけど、仕事上のお得意さんが合流する予定なの。
でも、気を使う必要の無い人だから大丈夫。
アパレルメーカーの部長さんなのよ。とても気さくな人よ」
三十分もすると、恵美のお得意さんという五十歳くらいの男性がやって来ました。
白髪交じりでしたが豊かな髪の、感じのいい紳士でした。
「いやぁ、済まないね。すっかり遅くなってしまった」
「佳代子、こちらは上田さん。うえださん、お話しておいたでしょ。
こちら、私の親友の佳代子さんよ」
上田哲郎(仮名)は、話術の巧みな男でした。初対面にもかかわらず、
私はすぐに上田と打ち解けました。これは、人見知りする私にしては珍しい事でした。
すっかり座が盛り上がったところで、二次会という事になりました。私達三人はタクシーに
乗り込み、赤坂にある上田の馴染みの店に向かいました。時計を見ると、
すでに十時を回っています。下の子が帰っているかも知れないと思いつつも、
私はこの楽しい雰囲気から抜け出す事が出来ませんでした。
赤坂のバーでも、私は上田の愉快な話術に引き込まれました。十一時になると、
用事があると言って恵美がが席をたちあがりました。
「ああ、それじゃあ私も・・・」
「いいじゃないの。佳代子は、もう少しいたら?たまのお出掛け何だから少々、
羽を伸ばしても構わないんじゃない?ねぇ、そうしなさいよ」
「そうですよ、佳代子さん。まだ、僕は貴女を帰しませんよ」
二人に強引に引き留められ、私は赤坂の店に残る事にしました。
正直言うと、私もまだ上田とお喋りをしていたかったのです。
「やっと二人きりになれましたね、佳代子さん」
「イヤだわ。上田さんたら、ご冗談ばっかり」
いい加減、アルコールも回っていました。夫以外の男と二人でお酒を飲む楽しさと、
酔いが、めまぐるしく私の肉体を駆け巡っていたのです。
「いいえ、冗談じゃありません。貴女のように楚々とした感じの人は珍しい。
僕の、いいえ、男の理想ですよ、あなたは」
恵美が消えると、上田はグッと私に接近してきました。酔った頭と肉体でとっさに危険を
察しましたが、私には彼を上手くかわす事は出来ませんでした。
思えば、私はこの危険なムードを本当は望んでいたのかも知れません。
長い間、家庭と言う名のカゴに閉じ込められていた私です。
鳥だって、たまには危険を冒して自由に広い空を飛び回りたいとおもうでしょう。
そのときの私にとって、上田は危険が一杯の大空でした。
「本当に、上田さんはお口が達者でいらっしゃるのね」
「達者なのは口ばかりじゃありませんよ、佳代子さん、ここを出ませんか?」
もちろん、私には上田の言葉の持つ重みが判っていました。
帰らなくてはいけないと自分に言い聞かせる一方、
私の中に潜んでいた悪い蟲が上田を受け容れてしまったのです。
どうして私は、
初対面の男に従ってラブホテルなどと言う場所に遣って来てしまったのでしょうか。
それは私にとっては冒険も冒険、前代未聞の無軌道な行為でした。
確かに、私は不満を一杯抱えて生きていました。
夫との性生活とて、最後に何時したか覚えていないくらいです。
けれども、はっきりとは性的飢餓を感じてはいませんでした。
それなのに、一体どうして・・・?
私には、自分の行動に理由を見つける事が出来ませんでした。強いて理由を
上げるなら、女という生物の中には魔物が棲んで居るとでも言う他ありません。
そう、私は今までその魔物に気が付かなかっただけなのです。
魔物はいつ何どきその姿を露にするか判ったものではありません、チャンスがあれば、
ところ構わずその淫靡な姿を露呈するものなのでしょう。
この年齢に成って、まさか夫以外の男性と交わろうとは思ってもみませんでした。
女としての情熱が残っていたことすら、信じられなかったほどです。
つまり、私は自分が生身の女であることを忘れていたのです。
「ど、どうしましょう、私ったら・・・」
上田と共にラブホテルの門を潜って初めて、私は事の重大さに慄きました。
決してカマトトぶって居た訳では有りませんが、浮気をするのは勿論初体験でした。
「佳代子さんは、実に可愛い。
現代の日本女性が失ってしまった奥ゆかしさを持っている貴重な人だ・・・」
そんな私の狼狽ぶりが、上田の目には事の他初々しく映ったようでした。
四十も半ばになって初々しいと言うのも変ですが、私は純粋培養で生きてた
平凡で小心な主婦なのです。この時の私は、恋人に初めて肉体を許そうとする
乙女も同然の心境でした。
「ああ、私・・・もう立っていられない!」
緊張と酔いの為に、私は立ち眩みを覚えていました。
不倫流行の昨今、私のような女は珍しかったかもしれません。
数日後、恵美から連絡がありました。
新宿にあるヴェトナム料理の店で食事をしないか。と言う電話でした。
「出てらっしゃいよ。ヴェトナム料理って、いま流行っているのよ。
すごく美味しいんだから、私、六時頃には新宿へ着けると思うから、ねっ?」
どうせ主人は御前さま、上の子もサークル活動とやらで帰りは遅く、下の子も塾通いに
忙しい毎日です。一人ぼんやり家に居ても面白いはずも無く、私は恵美の誘いに
乗ることにしました。
「今夜高校時代のクラス会が新宿であるので帰りは遅くなります」と置手紙と夕食の
仕度をして出かけました。
「どう、なかなかイケるでしょう?低カロリーだから、いくら食べても心配ないわよ」
その夜、私は珍しくお洒落をしていました。久しぶりの外出で、化粧のノリもいいようでした。
めったに袖を通す事の無いシルク地のワンピースを着て、心が弾んでいました。
「だけど、今夜の佳代子はとても素敵よ。このあいだよりずっと色っぽいわ。
佳代子の色気は、すごく上品ね」
お洒落をしてきて良かった、と私はつくづく思いました。想像通り、恵美も華やかに着飾って
いたからです。女同士の見栄の張り合いと言うわけでは有りませんが、
私にも女としてのプライドくらいはあるのです。
「それにしても遅いわねぇ」
「えっ?他にどなたかいらっしゃるの?」
生春巻きヴェトナム風のお好み焼きなどを食べているうち、恵美が時計を見て呟きました。
「ごめんなさい。いい忘れていたけど、仕事上のお得意さんが合流する予定なの。
でも、気を使う必要の無い人だから大丈夫。
アパレルメーカーの部長さんなのよ。とても気さくな人よ」
三十分もすると、恵美のお得意さんという五十歳くらいの男性がやって来ました。
白髪交じりでしたが豊かな髪の、感じのいい紳士でした。
「いやぁ、済まないね。すっかり遅くなってしまった」
「佳代子、こちらは上田さん。うえださん、お話しておいたでしょ。
こちら、私の親友の佳代子さんよ」
上田哲郎(仮名)は、話術の巧みな男でした。初対面にもかかわらず、
私はすぐに上田と打ち解けました。これは、人見知りする私にしては珍しい事でした。
すっかり座が盛り上がったところで、二次会という事になりました。私達三人はタクシーに
乗り込み、赤坂にある上田の馴染みの店に向かいました。時計を見ると、
すでに十時を回っています。下の子が帰っているかも知れないと思いつつも、
私はこの楽しい雰囲気から抜け出す事が出来ませんでした。
赤坂のバーでも、私は上田の愉快な話術に引き込まれました。十一時になると、
用事があると言って恵美がが席をたちあがりました。
「ああ、それじゃあ私も・・・」
「いいじゃないの。佳代子は、もう少しいたら?たまのお出掛け何だから少々、
羽を伸ばしても構わないんじゃない?ねぇ、そうしなさいよ」
「そうですよ、佳代子さん。まだ、僕は貴女を帰しませんよ」
二人に強引に引き留められ、私は赤坂の店に残る事にしました。
正直言うと、私もまだ上田とお喋りをしていたかったのです。
「やっと二人きりになれましたね、佳代子さん」
「イヤだわ。上田さんたら、ご冗談ばっかり」
いい加減、アルコールも回っていました。夫以外の男と二人でお酒を飲む楽しさと、
酔いが、めまぐるしく私の肉体を駆け巡っていたのです。
「いいえ、冗談じゃありません。貴女のように楚々とした感じの人は珍しい。
僕の、いいえ、男の理想ですよ、あなたは」
恵美が消えると、上田はグッと私に接近してきました。酔った頭と肉体でとっさに危険を
察しましたが、私には彼を上手くかわす事は出来ませんでした。
思えば、私はこの危険なムードを本当は望んでいたのかも知れません。
長い間、家庭と言う名のカゴに閉じ込められていた私です。
鳥だって、たまには危険を冒して自由に広い空を飛び回りたいとおもうでしょう。
そのときの私にとって、上田は危険が一杯の大空でした。
「本当に、上田さんはお口が達者でいらっしゃるのね」
「達者なのは口ばかりじゃありませんよ、佳代子さん、ここを出ませんか?」
もちろん、私には上田の言葉の持つ重みが判っていました。
帰らなくてはいけないと自分に言い聞かせる一方、
私の中に潜んでいた悪い蟲が上田を受け容れてしまったのです。
どうして私は、
初対面の男に従ってラブホテルなどと言う場所に遣って来てしまったのでしょうか。
それは私にとっては冒険も冒険、前代未聞の無軌道な行為でした。
確かに、私は不満を一杯抱えて生きていました。
夫との性生活とて、最後に何時したか覚えていないくらいです。
けれども、はっきりとは性的飢餓を感じてはいませんでした。
それなのに、一体どうして・・・?
私には、自分の行動に理由を見つける事が出来ませんでした。強いて理由を
上げるなら、女という生物の中には魔物が棲んで居るとでも言う他ありません。
そう、私は今までその魔物に気が付かなかっただけなのです。
魔物はいつ何どきその姿を露にするか判ったものではありません、チャンスがあれば、
ところ構わずその淫靡な姿を露呈するものなのでしょう。
この年齢に成って、まさか夫以外の男性と交わろうとは思ってもみませんでした。
女としての情熱が残っていたことすら、信じられなかったほどです。
つまり、私は自分が生身の女であることを忘れていたのです。
「ど、どうしましょう、私ったら・・・」
上田と共にラブホテルの門を潜って初めて、私は事の重大さに慄きました。
決してカマトトぶって居た訳では有りませんが、浮気をするのは勿論初体験でした。
「佳代子さんは、実に可愛い。
現代の日本女性が失ってしまった奥ゆかしさを持っている貴重な人だ・・・」
そんな私の狼狽ぶりが、上田の目には事の他初々しく映ったようでした。
四十も半ばになって初々しいと言うのも変ですが、私は純粋培養で生きてた
平凡で小心な主婦なのです。この時の私は、恋人に初めて肉体を許そうとする
乙女も同然の心境でした。
「ああ、私・・・もう立っていられない!」
緊張と酔いの為に、私は立ち眩みを覚えていました。
不倫流行の昨今、私のような女は珍しかったかもしれません。
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プロフィール
Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。
私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。
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