平凡な主婦に何が起こったか?其の四
◇耳に心地よい誘惑
情事の興奮も冷め遣らぬある日の午後、ふいに恵美が我が家を訪ねて来ました。
外回りの途中のようでしたが、時間はいくらでも自由になる仕事らしいのです。
「ちょつと顔を見に寄っただけ。お構いなくね」
ニヤニヤと意味有りげな笑いを湛えながら、それでも恵美は居間に入って来ました。
「うふふっ、貴女、顔がツヤツヤしてるわね。
随分とお楽しみの様だったわね、上田さんと・・・」
「・・・恵美、知ってるの?」
少なからず、私はショックを受けました。二人だけの秘密と思っていたのに、
上田が喋ったに違いありません。
「知ってるわよ。もちろん。
だって、最初からその積りで貴女を上田さんに紹介したんですもの」
「そ、それ、どういうこと・・・?」
お茶を出す手が、大きく震えました。
「私を利用したの?保険の契約を撮る為に、私を上田さんに宛てがったの!?」
「そんなに怒らないでよ。違うわよ、あなたを利用するなんて、
そんなバカなこと・・・。私は良かれと思って、あなたを上田さんと引き合わせたのよ」
「判らないわ。いったい、恵美ったら何を考えてるの?」
「まあまあ、興奮しないでよ。人生は短いのよ。佳代子」
恵美は、憎たらしいほど落ち着いていました。
「人生は楽しんでこそ人生じゃない?
面白おかしく生きなきゃ、損ってもんだわよ。貴女は、何が楽しくて生きてるの?」
「恵美には関係ないことよ」
「この間は楽しかったでしょ、佳代子?
多少、羽目を外したって楽しくなきゃ生きている価値ないわよ。
今日び、どこの人妻だって不倫ぐらいしているわよ。
アバンチュールなんて、当たり前の世の中なのよ、佳代子」
「そ、そうかしら・・・。でも、主人には絶対、内緒にしなくくっちゃ」
「当然でしょ。私だって、主人には秘密にしているわ」
恵美は、サラリと言ってのけました。
「何をそんなに驚いているの?男女同権の社会なのよ。女が浮気して何が悪いのよ。
男も女も、綺麗な花が咲いてりゃ摘んでみたくもなるわ。
たかが浮気よ、本気になっちゃダメよ。どうって事ないわよ、単なる粘膜の接触なのよ。
あなたも、もっと人生を謳歌するべきなのよ」
私には返す言葉もありませんでした。確かに恵美の言うとおり、
ひとときの情事を私は心の底、肉体の芯から謳歌したのです。
それも恵美や上田に強制されたわけではく、自分の意思で・・・。
「上田さんね、貴女の事とても褒めていたわ。
私も貴女は上田さんに気に入られると思った。
貴女はとても魅力があるもの、佳代子」
恵美は私ににじり寄りました。しっかりと私の手を握り、こう言ったのです。
「貴女さえよければ、もっと男の人を紹介するわ。
私は上田さんの様な紳士をたくさん知っているのよ。
みーんな、後腐れのない人ばかりよ。絶対、悪い様にはしないわ」
「でも困るわ。そんな事を続けていたら、主人に・・・」
「バレない様にするのよ。時間や曜日を決めて子供や主人に気付かれないように・・・
巧くやれば、バレる訳ないじゃない。こう言っちゃ何だけど、
もうご主人はそれほどあなたに関心を持ってはいないでしょ。
安心しきっているはずよ。ウチもそうだもの」
「そりゃあ、そうかもしれないけど・・・」
「おかしな罪悪感なんて持つ必要ないわ。
自分の女房に興味を持たなくなった、亭主がいけないのよ。
そんな男に操を立てるより、ねっ?
私達の価値を認めて呉れる男と付き合った方が得よ。
私達が花なら、男は水よ。水がなくちゃ、花は枯れるのよ。
私達はまだまだ若いわ。まだ女なのよ。この年齢で枯れたくはないでしょ?」
恵美の迫力に、私は頷くしかすべを知りませんでした。また連絡するからと
言い残して帰って行く恵美の姿を、私は何時までもボーッと見詰ていました。
「明日の昼間、空いてるかしら、佳代子。もう、私が行かなくても平気よね。
明日の午前11時に、新宿のWホテルへ行って欲しいんだけど・・・」
その日のうちに、恵美から電話が掛かってきました。
有無を言わさない口利の電話でした。
「明日のお相手はね、赤羽さんっていう青年実業家よ。
お年はまだ三十代。若くて、とても素敵な方なの」
「えっ?上田さんじゃないの?」
「佳代子、遊びなのよ。一人の人にのめり込んじゃダメなのよ。
いろんな方とお付き合いしなきゃ、面白くないでしょう。
とにかく、Wホテルのラウンジで待ち合わせよ。
目印は、スーッに赤い羽をつけるそうよ。
名前が赤羽だから、赤い羽ってわけ、中々ウイットに富んだ人でしょ」
「あっ、あの、恵美・・・」
「それじゃ、また連絡するわね!」
一方的に、電話は切られました。どこかで期待していたものの、やはり迷わずには
居られませんでした。今度は上田の時とは違い、最初から情事を承知の上で
出掛けなければならないのです。しかし、どうせ一度は夫を裏切ってしまった肉体です。
私はすでに坂道を転がり始めた石と同じでした。
翌日、私は時間通りにWホテルのラウンジへ出向きました。黒地に白い水玉の
ワンピースに真珠のネックレスを着けて、精一杯めかし込んだ積りでした。
(だけど、もし相手の人が私を気に入らなかったらどうしょう?
私よりかなり若い男性のようだけど)
私はオドオドとラウンジの中を捜しました。赤羽さんは直ぐに判りました。
彼は確かに仕立てのいいスーッの胸に、赤い羽を刺していたのです。
「あのぅ、赤羽さんですね?私・・・」
「ああ、佳代子さんですね。さあ、どうぞどうぞ。何を飲みますか?」
赤羽さんは痩せた背の高い、目つきの鋭い人でした。物腰は柔らかいものの、
何処か普通の人とは違った雰囲気があります。
チョッとしたら堅気の人ではないのでは、と私は不安になりました。
情事の興奮も冷め遣らぬある日の午後、ふいに恵美が我が家を訪ねて来ました。
外回りの途中のようでしたが、時間はいくらでも自由になる仕事らしいのです。
「ちょつと顔を見に寄っただけ。お構いなくね」
ニヤニヤと意味有りげな笑いを湛えながら、それでも恵美は居間に入って来ました。
「うふふっ、貴女、顔がツヤツヤしてるわね。
随分とお楽しみの様だったわね、上田さんと・・・」
「・・・恵美、知ってるの?」
少なからず、私はショックを受けました。二人だけの秘密と思っていたのに、
上田が喋ったに違いありません。
「知ってるわよ。もちろん。
だって、最初からその積りで貴女を上田さんに紹介したんですもの」
「そ、それ、どういうこと・・・?」
お茶を出す手が、大きく震えました。
「私を利用したの?保険の契約を撮る為に、私を上田さんに宛てがったの!?」
「そんなに怒らないでよ。違うわよ、あなたを利用するなんて、
そんなバカなこと・・・。私は良かれと思って、あなたを上田さんと引き合わせたのよ」
「判らないわ。いったい、恵美ったら何を考えてるの?」
「まあまあ、興奮しないでよ。人生は短いのよ。佳代子」
恵美は、憎たらしいほど落ち着いていました。
「人生は楽しんでこそ人生じゃない?
面白おかしく生きなきゃ、損ってもんだわよ。貴女は、何が楽しくて生きてるの?」
「恵美には関係ないことよ」
「この間は楽しかったでしょ、佳代子?
多少、羽目を外したって楽しくなきゃ生きている価値ないわよ。
今日び、どこの人妻だって不倫ぐらいしているわよ。
アバンチュールなんて、当たり前の世の中なのよ、佳代子」
「そ、そうかしら・・・。でも、主人には絶対、内緒にしなくくっちゃ」
「当然でしょ。私だって、主人には秘密にしているわ」
恵美は、サラリと言ってのけました。
「何をそんなに驚いているの?男女同権の社会なのよ。女が浮気して何が悪いのよ。
男も女も、綺麗な花が咲いてりゃ摘んでみたくもなるわ。
たかが浮気よ、本気になっちゃダメよ。どうって事ないわよ、単なる粘膜の接触なのよ。
あなたも、もっと人生を謳歌するべきなのよ」
私には返す言葉もありませんでした。確かに恵美の言うとおり、
ひとときの情事を私は心の底、肉体の芯から謳歌したのです。
それも恵美や上田に強制されたわけではく、自分の意思で・・・。
「上田さんね、貴女の事とても褒めていたわ。
私も貴女は上田さんに気に入られると思った。
貴女はとても魅力があるもの、佳代子」
恵美は私ににじり寄りました。しっかりと私の手を握り、こう言ったのです。
「貴女さえよければ、もっと男の人を紹介するわ。
私は上田さんの様な紳士をたくさん知っているのよ。
みーんな、後腐れのない人ばかりよ。絶対、悪い様にはしないわ」
「でも困るわ。そんな事を続けていたら、主人に・・・」
「バレない様にするのよ。時間や曜日を決めて子供や主人に気付かれないように・・・
巧くやれば、バレる訳ないじゃない。こう言っちゃ何だけど、
もうご主人はそれほどあなたに関心を持ってはいないでしょ。
安心しきっているはずよ。ウチもそうだもの」
「そりゃあ、そうかもしれないけど・・・」
「おかしな罪悪感なんて持つ必要ないわ。
自分の女房に興味を持たなくなった、亭主がいけないのよ。
そんな男に操を立てるより、ねっ?
私達の価値を認めて呉れる男と付き合った方が得よ。
私達が花なら、男は水よ。水がなくちゃ、花は枯れるのよ。
私達はまだまだ若いわ。まだ女なのよ。この年齢で枯れたくはないでしょ?」
恵美の迫力に、私は頷くしかすべを知りませんでした。また連絡するからと
言い残して帰って行く恵美の姿を、私は何時までもボーッと見詰ていました。
「明日の昼間、空いてるかしら、佳代子。もう、私が行かなくても平気よね。
明日の午前11時に、新宿のWホテルへ行って欲しいんだけど・・・」
その日のうちに、恵美から電話が掛かってきました。
有無を言わさない口利の電話でした。
「明日のお相手はね、赤羽さんっていう青年実業家よ。
お年はまだ三十代。若くて、とても素敵な方なの」
「えっ?上田さんじゃないの?」
「佳代子、遊びなのよ。一人の人にのめり込んじゃダメなのよ。
いろんな方とお付き合いしなきゃ、面白くないでしょう。
とにかく、Wホテルのラウンジで待ち合わせよ。
目印は、スーッに赤い羽をつけるそうよ。
名前が赤羽だから、赤い羽ってわけ、中々ウイットに富んだ人でしょ」
「あっ、あの、恵美・・・」
「それじゃ、また連絡するわね!」
一方的に、電話は切られました。どこかで期待していたものの、やはり迷わずには
居られませんでした。今度は上田の時とは違い、最初から情事を承知の上で
出掛けなければならないのです。しかし、どうせ一度は夫を裏切ってしまった肉体です。
私はすでに坂道を転がり始めた石と同じでした。
翌日、私は時間通りにWホテルのラウンジへ出向きました。黒地に白い水玉の
ワンピースに真珠のネックレスを着けて、精一杯めかし込んだ積りでした。
(だけど、もし相手の人が私を気に入らなかったらどうしょう?
私よりかなり若い男性のようだけど)
私はオドオドとラウンジの中を捜しました。赤羽さんは直ぐに判りました。
彼は確かに仕立てのいいスーッの胸に、赤い羽を刺していたのです。
「あのぅ、赤羽さんですね?私・・・」
「ああ、佳代子さんですね。さあ、どうぞどうぞ。何を飲みますか?」
赤羽さんは痩せた背の高い、目つきの鋭い人でした。物腰は柔らかいものの、
何処か普通の人とは違った雰囲気があります。
チョッとしたら堅気の人ではないのでは、と私は不安になりました。
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プロフィール
Author:アヤメ草
FC2ブログへようこそ!管理人の
アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。
私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。
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