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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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未亡人の熱い肌。其の三

~募る憧憬心~
未亡人の熱い肌07
「人の血は石鹸で洗うのが一番良いのよ、ほら、こんなに落ちたでしょう?」
広げたコートには濡れた染みだけで、血痕ひとつなかった。

「さあ、今度は手を見せて・・・」
「すみません・・・」
私は素直に、痛めた左手を未亡人の手に委ねた。

未亡人は私の指を軽く揉み、私の痛みの反応を窺ってから、
マッチ箱の筒の部分を添え木代わりに包帯を巻いてくれる。
「折れては居ないわね。ちゃんと男らしく闘った証拠ね、相手は何人?」

包帯を巻き終わった未亡人が、私を悪戯ポイ微笑で見つめた。
「三人です」私は苦笑した。
「やっつけたの?」未亡人が首をかしげる。
「二人・・・一人は殴って、もう一人は金タ・・・」
私は慌ててタマの語尾を飲み込んだ。すると、どうしたのか未亡人が吹き出した。

「金タマを蹴ったんでしょ?良いのよ、私の主人も学生時代には良く喧嘩して、
 大勢が相手だったけど金タマ蹴って勝ったって、よく自慢してたのよ・・・」

少し赤らんだ顔を両手で隠し、未亡人は中々笑い止まらなかった。
それが凄くチャーミングで、私は一緒に笑いながら、何か妙に胸を騒がしていた。

「ごめんなさい、はしたない言葉を喋ったりして、でもこんなに笑ったのは久し振り、
 君は楽しそうな人ね・・・」
笑って潤んだ眼が私を見つめた。
 
未亡人の熱い肌08
気位の高い未亡人の眼ではなかった。想像上の姉の眼だった。
その優しい眼に見つめられて、私の顔に血が上ってくる。

「美味しいココア入れてあげるわね、身体が温まるわよ」
未亡人は暫し台所に立って、ココアとケーキを切って持って来てくれた。

「そうそう、君のお名前は?」
私の顔はさらに赤くなった。ずっと懸念していた質問だ。だが本名は言えない。
「あ、あの、伊藤、伊藤達郎です・・・」
「そう、伊藤君ね・・・」
呟いた声には偽名を見抜いた響きがあるように思われ、私は真っ赤になった。

「どうします。留美子さんが帰るまで、この家で待ちますか・・・」
「いえ、帰ります、こんな姿で彼女に会いたくないので・・・」

私は時計を見た、そろそろお暇しなければ成らない時間だった。
「御馳走様でした、お世話を掛けてすみませんでした」
私は腰を浮かせて、再び礼を言い、まだ濡れているコートを拾い上げた。
そして逃げるように忍野家を出て、私は坂の小道を駆け下り、市電停留場に向かった。

何故か留美子への怒りは消えて、ほのぼのと高揚した気分だけが残っていた。

その後の数日間、何回か留美子から自宅に電話が有ったが、
私は居留守を使って電話には出なかった。

もう留美子は恋人ではない。私の気持の中では、彼女は裏切り者の売春婦のような
存在に成っていた。その代わり、忍野未亡人が心の中に住み着いていた。
未亡人の熱い肌09
4月5月。私は仕事に専念した。踊りにも行かなくなった。
留美子には出会いたくなかった。
忍野未亡人には逢いたいが、下宿には留美子が居る。私はロックではなく、
前年のレコード大賞歌「君恋し」を胸の中で歌いながら、
未亡人への憧憬心を育てていた。

6月の初め。留美子がデパートを辞めて実家に戻ったらしい、と人伝えに聞いて、
私の心は弾んだ。忍野未亡人と逢えるチャンスが来たのである。
6月17日。日曜日だった。私は晴れた午後の空の下、
樫の巨木が緑葉を涼しく広げる、洋館の前に立った。

ドアを開けてくれた未亡人は、晩春頃から流行しているハワイの民族衣装を模した、
カラフルなムームーを着ていた。先夜と違って白い首筋もふっくらした腕も、
いや膝下のすらりとした素肌の下肢も露だった。

私はその思わぬ変化にドギマギしつつ、土産のケーキの化粧箱を差し出した。
「まあ、あのときのお礼に?お若いのに、義理堅いのねえ・・・」
未亡人が驚いたように笑ったが、私には皮肉の様な気がした。
なにしろ三ヶ月も経っているお礼だった。

私は儀礼的に留美子の消息を尋ねた。
「あら、この家を出て行ってから、留美子からは何も連絡はないわ・・・」
未亡人が悪戯っぽく笑った。
「ふふふ、留美子に逢いたかったの、伊川さん・・・」

偽名はバレているだろう、と予想はしていたから恥じないが、逢いたかったのは
留美子ではない。私は耳まで赤くなって、「違います・・・」と小声で呟いた。
それをどう取ったのか、未亡人が面白そうに笑い、ドアを大きく開いた。

「折角いらっしてくれたのですから、中に入って、お茶でもいかが・・・」
待っていた言葉だ。この言葉を聞くためにケーキも多めに買ったのだ。
頭を掻きつつ、私はいそいそと玄関で靴を脱いだ。

  1. 未亡人との恋
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アヤメ草

Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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