我が生涯最高の女「熱海芸者・七吉」。其の一
◇熱海の長閑な陽春◇
閑散とした来宮の駅から、梅林に向かって、急な坂を上っていった。
晩春の日差しが、樹の間を通して、私の背中に当たり、暑いくらいであった。
熱海の町は随分変わって、鉄筋の建築物ばかりが立ち並び、
昔の温泉町らしい風情は影を潜めたが、この辺りに来るとまだ昔が偲ばれる
風景も僅かながら残っていた。
最後に聡子とデートした日の事が鮮明に思い出されるのであった。
季節外れと言っても良い時に、梅林への道を辿るのも、
過ぎし日の思い出を懐かしんでのことであった。
あの日は、聡子は軽装で、白いブラウスに、濃い紅色のスカートにサンダル、
小さなテリアを連れていた。この坂を上るときは、其の犬を胸に抱いていた。
其の日、わたしは大阪出張の帰りであった。
午前中新大阪から、新幹線に乗ったが、出張中の疲れが出たせいか、
熱海で降りて、一晩ゆっくりしてゆこうか、と言う気になって、
名古屋でこだまに乗り換えたのだった。
私は何かと言うと熱海に行く習性のようなものがあった。
戦時中、私の一家は母方の実家のある熱海で、
板前をしていた叔父の勤める旅館の一室に疎開していたのだ。
未だ私が就学前の事であった。
戦争が終わっても、戦災で焼け野原と化した東京には帰れず、
5年ほどたって漸く、東京に戻れた。だから幼い日を過ごした熱海は、
第二の故郷のように感ぜられるのであった。
それに聡子が住んでいる。聡子と知り合ったのも、後述するように、
熱海との因縁からであった。
出張の帰りに熱海に寄ったのは、疲れた身体を癒す為ばかりではなく、
うまく聡子の身体が空いていれば交わりたいと言う下心もあったのだ。
其の頃、聡子は、芸者置屋の女将をしながら、自分も褄を取っていたのだ。
旅館について、聡子の置屋に電話すると、聡子本人がでた。
「犬を散歩させに出る所だから、何処かで会って散歩でもしよう」
と言うのであった。来宮の駅で待ち合わせて、まだ花が咲いているという
梅園に向かってぶらぶらと歩いて行ったのである。
梅園に行くと平日なので園内は閑静だった。
梅の木陰で、犬の首輪を持った、聡子の小柄な身体を抱いて、つと、キスをした。
彼女が応じて来たので、一寸長いキスになった。私は、そのたっぷりした乳房を
ブラウスの上から慰撫すると、
「ワンちゃんが見てるよ、焼餅やかれるわよ、これ牡だから」
と笑って身を離した。
「今夜、ゆっくりやれるんだからさ」
と言って軽くキスを返してきた。それから梅林を出て熱海の町へ下りた。
聡子は糸川沿いの置屋へ帰っていった。
私は宿に帰ると、馴染みの仲居に、芸者七吉を泊まりで呼んでくれる様に頼んだ。
聡子との関係を知っているから仲居は心得たもので、
「お楽しみね」と言って部屋を出て行った。
七吉は「ななきち」と読む。聡子の芸者名であった。
閑散とした来宮の駅から、梅林に向かって、急な坂を上っていった。
晩春の日差しが、樹の間を通して、私の背中に当たり、暑いくらいであった。
熱海の町は随分変わって、鉄筋の建築物ばかりが立ち並び、
昔の温泉町らしい風情は影を潜めたが、この辺りに来るとまだ昔が偲ばれる
風景も僅かながら残っていた。
最後に聡子とデートした日の事が鮮明に思い出されるのであった。
季節外れと言っても良い時に、梅林への道を辿るのも、
過ぎし日の思い出を懐かしんでのことであった。
あの日は、聡子は軽装で、白いブラウスに、濃い紅色のスカートにサンダル、
小さなテリアを連れていた。この坂を上るときは、其の犬を胸に抱いていた。
其の日、わたしは大阪出張の帰りであった。
午前中新大阪から、新幹線に乗ったが、出張中の疲れが出たせいか、
熱海で降りて、一晩ゆっくりしてゆこうか、と言う気になって、
名古屋でこだまに乗り換えたのだった。
私は何かと言うと熱海に行く習性のようなものがあった。
戦時中、私の一家は母方の実家のある熱海で、
板前をしていた叔父の勤める旅館の一室に疎開していたのだ。
未だ私が就学前の事であった。
戦争が終わっても、戦災で焼け野原と化した東京には帰れず、
5年ほどたって漸く、東京に戻れた。だから幼い日を過ごした熱海は、
第二の故郷のように感ぜられるのであった。
それに聡子が住んでいる。聡子と知り合ったのも、後述するように、
熱海との因縁からであった。
出張の帰りに熱海に寄ったのは、疲れた身体を癒す為ばかりではなく、
うまく聡子の身体が空いていれば交わりたいと言う下心もあったのだ。
其の頃、聡子は、芸者置屋の女将をしながら、自分も褄を取っていたのだ。
旅館について、聡子の置屋に電話すると、聡子本人がでた。
「犬を散歩させに出る所だから、何処かで会って散歩でもしよう」
と言うのであった。来宮の駅で待ち合わせて、まだ花が咲いているという
梅園に向かってぶらぶらと歩いて行ったのである。
梅園に行くと平日なので園内は閑静だった。
梅の木陰で、犬の首輪を持った、聡子の小柄な身体を抱いて、つと、キスをした。
彼女が応じて来たので、一寸長いキスになった。私は、そのたっぷりした乳房を
ブラウスの上から慰撫すると、
「ワンちゃんが見てるよ、焼餅やかれるわよ、これ牡だから」
と笑って身を離した。
「今夜、ゆっくりやれるんだからさ」
と言って軽くキスを返してきた。それから梅林を出て熱海の町へ下りた。
聡子は糸川沿いの置屋へ帰っていった。
私は宿に帰ると、馴染みの仲居に、芸者七吉を泊まりで呼んでくれる様に頼んだ。
聡子との関係を知っているから仲居は心得たもので、
「お楽しみね」と言って部屋を出て行った。
七吉は「ななきち」と読む。聡子の芸者名であった。
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“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
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