或る娼婦の思い出。其の四
◇娼婦の死に様◇
そうこうしているうちに静江さんの部屋へ出入するようになって一年が過ぎようとしていた。
清江さんが気に成る咳をしはじめたのはそんな頃だった。
私は大学に行く気はなかったから、大きな岐路に立たされていた。
(このままポン引きを続けるか、それとも就職試験を受けるか)
と言う人生の問題にぶっかった訳だ。
「ねえ、清江さん、僕はどうしたらいいんだろう・・・」
清江さんに相談を持ちかけると、清江さんは、
「いや、就職したら慎ちゃん、あたしのところに来なくなっちゃうわ・・・
ね、一生、あたしが食べさせてあげる、一生懸命客を取るから・・・」
と清江さんは言った。
私はそんな清江さんがなんか年下の女の様な気がして愛しかった。
「わかった・・・僕は就職なんてしない、清江さん専属のポン引きを続けるよ」
私は、本気でそういった。清江さんの至れりつくせりの性技で快楽の限りを味わう
甘美な一時を捨て難かったからだった。
「嬉しい・・・ね、慎ちゃん、うんと稼がなくっちゃ、ね、
慎ちゃんが棲むアパートも近くに借りましょうね・・・泊り客がある時困るもの・・・」
清江さんは無邪気にはしゃいで言った。
そんな清江さんが肺結核だと分かったのは、高熱で倒れ、
一週間寝込んで病院に行ったからだ。
「少なくとも半年は入院しなくては・・・」
と医師から言われた清江さんの代わりに、私はK組の川西さんのところへ行った。
「ちっ、これっぽっちか・・・」
川西さんは、清江さんが病を押して稼いだ上納金を数えると舌打ちした。
「なに、肺病患ったって!何をしてんだあいつ・・・」
川西さんは私が病名を告げると、露骨に嫌な顔をした。
「あの、入院させなくては・・・でも入院費用が・・・
すみませんが川西さん、清江さんのために・・・」
そういったとたん、川西さんは、
「バカヤロー、テメェ、何考えてんだ。テメェが清江と乳繰り合ってんのは知ってたが
見逃してやってたのは、テメェが少しは見所があると思ってたからじゃねえか。
清江が肺病だから金出せだと・・・ふざけんな。オマンコが病気な訳じゃねえだろ。
あの女はいずれは野垂れ死によ。そうなるまで、お前は客取って清江に稼がせろ!!」
すごい剣幕で言い、私の頬を五、六発殴りつけたのだ。
(川西さんには人の情もなにもないのか、酷い、酷すぎる!!)私は腹立たしかったが、
清江さんの為に、川西さんへ一言の抗弁をしてやる事が出来なかった。
「わかったわ・・・どうせあたしなんかそうなる運命なのよ・・・
ねぇ、慎ちゃん、せめて死に水取ってくれる・・・」
「わ、わかった・・・」
私は、涙がポロポロ流れて止まらなかった。
「何泣いてるのよ・・・ポン引きの慎ちゃん。早く客取ってこなきゃ」
私は清江さんに尻を押されて、街頭に立って客を拾った。
三人取るところを二人に・・・といった感じで少しでも清江さんの休む時間を作る事が
せめても私に出来る彼女への思いやりだった。
そのくせ、深夜帰る時、清江さんに求められると、股間のモノを熱くし、
のしかかってしまうのだから、性欲の業というものは恐ろしいものだ。
それから数週間後、清江さんは死んだ。
眠っていて血を吐き、それが喉に詰まったと言う事だった。
私は、その日以来、池袋に足を踏み入れる事はかなり長い間なかった。
薄情にも死に水を取ることもできなかった自分が不甲斐なくって、
どうしても池袋で途中下車する事が出来なく成ってしまったのだ。
と同時に不良な生活からもきっぱり足を洗った。
そうする事で清江さんが少しでも喜んで呉れるのではと思えたからだ。
私にとってほんの青春の一コマに過ぎなかったかも知れない。
でも、人に対する思いやりだけは持ちたいと、
清江さんの面影を思い出すたび、今なお思いを新たにするのだ。
END
そうこうしているうちに静江さんの部屋へ出入するようになって一年が過ぎようとしていた。
清江さんが気に成る咳をしはじめたのはそんな頃だった。
私は大学に行く気はなかったから、大きな岐路に立たされていた。
(このままポン引きを続けるか、それとも就職試験を受けるか)
と言う人生の問題にぶっかった訳だ。
「ねえ、清江さん、僕はどうしたらいいんだろう・・・」
清江さんに相談を持ちかけると、清江さんは、
「いや、就職したら慎ちゃん、あたしのところに来なくなっちゃうわ・・・
ね、一生、あたしが食べさせてあげる、一生懸命客を取るから・・・」
と清江さんは言った。
私はそんな清江さんがなんか年下の女の様な気がして愛しかった。
「わかった・・・僕は就職なんてしない、清江さん専属のポン引きを続けるよ」
私は、本気でそういった。清江さんの至れりつくせりの性技で快楽の限りを味わう
甘美な一時を捨て難かったからだった。
「嬉しい・・・ね、慎ちゃん、うんと稼がなくっちゃ、ね、
慎ちゃんが棲むアパートも近くに借りましょうね・・・泊り客がある時困るもの・・・」
清江さんは無邪気にはしゃいで言った。
そんな清江さんが肺結核だと分かったのは、高熱で倒れ、
一週間寝込んで病院に行ったからだ。
「少なくとも半年は入院しなくては・・・」
と医師から言われた清江さんの代わりに、私はK組の川西さんのところへ行った。
「ちっ、これっぽっちか・・・」
川西さんは、清江さんが病を押して稼いだ上納金を数えると舌打ちした。
「なに、肺病患ったって!何をしてんだあいつ・・・」
川西さんは私が病名を告げると、露骨に嫌な顔をした。
「あの、入院させなくては・・・でも入院費用が・・・
すみませんが川西さん、清江さんのために・・・」
そういったとたん、川西さんは、
「バカヤロー、テメェ、何考えてんだ。テメェが清江と乳繰り合ってんのは知ってたが
見逃してやってたのは、テメェが少しは見所があると思ってたからじゃねえか。
清江が肺病だから金出せだと・・・ふざけんな。オマンコが病気な訳じゃねえだろ。
あの女はいずれは野垂れ死によ。そうなるまで、お前は客取って清江に稼がせろ!!」
すごい剣幕で言い、私の頬を五、六発殴りつけたのだ。
(川西さんには人の情もなにもないのか、酷い、酷すぎる!!)私は腹立たしかったが、
清江さんの為に、川西さんへ一言の抗弁をしてやる事が出来なかった。
「わかったわ・・・どうせあたしなんかそうなる運命なのよ・・・
ねぇ、慎ちゃん、せめて死に水取ってくれる・・・」
「わ、わかった・・・」
私は、涙がポロポロ流れて止まらなかった。
「何泣いてるのよ・・・ポン引きの慎ちゃん。早く客取ってこなきゃ」
私は清江さんに尻を押されて、街頭に立って客を拾った。
三人取るところを二人に・・・といった感じで少しでも清江さんの休む時間を作る事が
せめても私に出来る彼女への思いやりだった。
そのくせ、深夜帰る時、清江さんに求められると、股間のモノを熱くし、
のしかかってしまうのだから、性欲の業というものは恐ろしいものだ。
それから数週間後、清江さんは死んだ。
眠っていて血を吐き、それが喉に詰まったと言う事だった。
私は、その日以来、池袋に足を踏み入れる事はかなり長い間なかった。
薄情にも死に水を取ることもできなかった自分が不甲斐なくって、
どうしても池袋で途中下車する事が出来なく成ってしまったのだ。
と同時に不良な生活からもきっぱり足を洗った。
そうする事で清江さんが少しでも喜んで呉れるのではと思えたからだ。
私にとってほんの青春の一コマに過ぎなかったかも知れない。
でも、人に対する思いやりだけは持ちたいと、
清江さんの面影を思い出すたび、今なお思いを新たにするのだ。
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プロフィール
Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。
私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
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