老いて益々盛んに。其の二
◇男と女の違いは?
(阿部定事件現場となった尾久の待合茶屋)
年齢(とし)を取ると、古い記憶が鮮明に蘇って来る事が有る。
しかも何十年も前の思い出だけが、ポッカリと浮かび上がって来るのだ。
そんな感じで、何人かの女が、私の瞼の裏に蘇って来た。
私は妻の身体に愛戯を加えながら、古い過去に戻って、
そんな女達を抱いて居るような気分を味わうようになった。
そうするとその時期の若さまで甦り、益々身体が燃え上がり、
妻に与える快感も深く成って行くのだ。
夫が自分に夢中に成っている、と感じている妻には、
ちょっぴり申し訳ない気もするが・・・。
わたしは懺悔の思いをこめて、全てをここに告白する積りです。
私は岩手県の農家の三男として、昭和11年5月に生まれた。
現在は両親とも他界し、長男夫婦とその息子が実家を継いでいる。
二男は15年前に癌で死亡し、彼の家族は宮城県にいる。
どちらもこの数年、行き来がない。
私の生まれた昭和11年には、二つの大きな事件があった。
2月26日、1400人の軍人が反乱を起こした、2・26事件。
5月18日、日本の猟奇事件の代表的なものと言われる、阿部定事件。
どちらも日本中を震撼とさせる大事件であった。
私が興味を感じたのは、その阿部定事件であった。
5月18日、東京の下町の待合で、男の死体が発見された。
男は細い紐で首を締められ殺されたうえに、下腹部の逸物を切り取られていた。
敷布に、「定吉二人きり」男の左太股に「定吉二人」左腕に「定」と
それぞれ血で書かれていた。
殺されたのは料理屋の主人である石田吉蔵であり、
二日後に逮捕されたのは、石田家の元手伝いの阿部定であった。
彼女は逮捕された時、懐に愛人である石田吉蔵の逸物を隠し持っていた。
この事件は日本中を震え上がらせたが、
同時に、阿部定に対して犯罪者と言うよりも、
只ひたすら愛人との関係に生きた女ーー
と捉えていた人々も多く居たのであった。
私の生まれた事と、この阿部定事件はなんの関係もない事だが、
同じ年の同じ月に生まれた私は、見えない運命的なものを感じないでは
居られないのである。私の女癖の悪さは、生まれた年月に何らかの
因縁めいたものが有る様に感じられてならないのだが・・・。
**
私が男と女の違いを、性として意識したのは、父母のセックスシーンを
覗き見た時が最初だった。小学4年生の頃だと記憶している。
夜中に母親の悲鳴のような声で目覚め、ブルブル震えながら襖の隅から
室内を覗き込むと、全裸の母親の上に父親が乗ったり、激しく攻め立てていた。
(母は父親に殺されるのではないだろうか)
そんな恐怖に襲われていたが、如何する事も出来なかった。
翌日の朝、母親は何事もなかったように、晴々とした表情をしていたのを、
いまでもうっすらと覚えている。
その両親の夜の生活で、私は女性に興味を感じるようになった。
中学生に成ると、エロ本を友達から借りて、自慰に耽るようになった。
まだ見た事もない女性器を想像して、毎晩寝ながら千擦りを掻く様になって行った。
前述したように、私は高校二年の時に童貞を卒業した。相手は十歳ぐらい年上の、
バーのホステスだった。
当時の私はグレていて、今で言うツッパリ高校生だった。
教師や親の目を盗んでは煙草を吸ったり酒を飲んだりしていた。
そんな時にホステスと知り合って、喫茶店などで話すようになり、或る日の昼間、
土曜か日曜日だったと思われるが、彼女のアパートに誘われた。
寺の裏手にある墓地のそばの、崩れそうなアパートだった。
彼女は私の童貞を奪う積りだったらしく、私を色っぽく誘ってきた。
千擦りしか知らない私は、彼女に誘われるまま飛び掛っていった。
いったい彼女に何をしたかさえ判らず、憶えているのは一生懸命に腰を
使っていた事だけだった。それもすぐあえなく発射して自分を取り戻した時には、
童貞を卒業して初体験も終わっていた。
「やっぱり、私の想像どおりね。童貞だったの・・・ね」
彼女が笑いを浮かべてそう言った時、
私はホステスにバカにされた様に感じていた。
「高二になって未だに童貞なんて、あんた、よほどもてない男なのね」
そんな風に軽蔑された様に感じて、カーッと成ってしまった。
私は再びホステスに襲い掛かっていき、彼女を抑え付けて、身体を覆い
被せていった。そして彼女の膣の中で思い切り二度目の射精を行った。
私にとってホステスは始めての女であり、女体そのものであった。
そのために彼女には遊びであっても、私は夢中になってしまった。
学校帰りに彼女のアパートに立ち寄り遊んだりしていたが、三ヶ月もすると、
「私ばかりじゃ、愉しくないでしょう。早く彼女を作ったら・・・」
と、突然別れを宣告してきた。
夢中になっている私は、はいそうですか、と別れられる筈もない。
彼女のアパートをしつこく訪問したり、拒否されると後を尾かけたり、
行動の全てを知ろうとした。今で言うストーカーそのものに成ってしまっていた。
彼女は店が終わった後、客と連れ込み旅館に入っていった事もあった。
「あんた、あたしを尾行しているみたいね。
いい加減にしないと警察に突き出すわよ」
おこった彼女にそう言われて、私はその見幕に震え上がってしまった。
高校三年の夏休みに、私にも彼女が出来た。
他校の二年生で彼女も不良娘だった。喫茶店で知り合って、
公園の隅や神社の裏手で抱き合った。行為自体は短かった。
お互いにセックスの快感なんて少しも感じていない。飢えた私が迫ると、
彼女がしかたなしに身体を開く、といったかんじだった。
そんな彼女との付き合いも、翌年私が卒業すると、なくなってしまった。
わたしは以前から、高校を卒業したら両親の許から出たいと考えていた。
独立して、自分一人の生活をして自由にくらしてみたい、とも思っていた。
同時に、どうせ独立するのなら、日本の首都である東京へ行って、
思いっきり羽を伸ばしてみたい、と都会に強い憧れを持っていた。
(阿部定事件現場となった尾久の待合茶屋)
年齢(とし)を取ると、古い記憶が鮮明に蘇って来る事が有る。
しかも何十年も前の思い出だけが、ポッカリと浮かび上がって来るのだ。
そんな感じで、何人かの女が、私の瞼の裏に蘇って来た。
私は妻の身体に愛戯を加えながら、古い過去に戻って、
そんな女達を抱いて居るような気分を味わうようになった。
そうするとその時期の若さまで甦り、益々身体が燃え上がり、
妻に与える快感も深く成って行くのだ。
夫が自分に夢中に成っている、と感じている妻には、
ちょっぴり申し訳ない気もするが・・・。
わたしは懺悔の思いをこめて、全てをここに告白する積りです。
私は岩手県の農家の三男として、昭和11年5月に生まれた。
現在は両親とも他界し、長男夫婦とその息子が実家を継いでいる。
二男は15年前に癌で死亡し、彼の家族は宮城県にいる。
どちらもこの数年、行き来がない。
私の生まれた昭和11年には、二つの大きな事件があった。
2月26日、1400人の軍人が反乱を起こした、2・26事件。
5月18日、日本の猟奇事件の代表的なものと言われる、阿部定事件。
どちらも日本中を震撼とさせる大事件であった。
私が興味を感じたのは、その阿部定事件であった。
5月18日、東京の下町の待合で、男の死体が発見された。
男は細い紐で首を締められ殺されたうえに、下腹部の逸物を切り取られていた。
敷布に、「定吉二人きり」男の左太股に「定吉二人」左腕に「定」と
それぞれ血で書かれていた。
殺されたのは料理屋の主人である石田吉蔵であり、
二日後に逮捕されたのは、石田家の元手伝いの阿部定であった。
彼女は逮捕された時、懐に愛人である石田吉蔵の逸物を隠し持っていた。
この事件は日本中を震え上がらせたが、
同時に、阿部定に対して犯罪者と言うよりも、
只ひたすら愛人との関係に生きた女ーー
と捉えていた人々も多く居たのであった。
私の生まれた事と、この阿部定事件はなんの関係もない事だが、
同じ年の同じ月に生まれた私は、見えない運命的なものを感じないでは
居られないのである。私の女癖の悪さは、生まれた年月に何らかの
因縁めいたものが有る様に感じられてならないのだが・・・。
**
私が男と女の違いを、性として意識したのは、父母のセックスシーンを
覗き見た時が最初だった。小学4年生の頃だと記憶している。
夜中に母親の悲鳴のような声で目覚め、ブルブル震えながら襖の隅から
室内を覗き込むと、全裸の母親の上に父親が乗ったり、激しく攻め立てていた。
(母は父親に殺されるのではないだろうか)
そんな恐怖に襲われていたが、如何する事も出来なかった。
翌日の朝、母親は何事もなかったように、晴々とした表情をしていたのを、
いまでもうっすらと覚えている。
その両親の夜の生活で、私は女性に興味を感じるようになった。
中学生に成ると、エロ本を友達から借りて、自慰に耽るようになった。
まだ見た事もない女性器を想像して、毎晩寝ながら千擦りを掻く様になって行った。
前述したように、私は高校二年の時に童貞を卒業した。相手は十歳ぐらい年上の、
バーのホステスだった。
当時の私はグレていて、今で言うツッパリ高校生だった。
教師や親の目を盗んでは煙草を吸ったり酒を飲んだりしていた。
そんな時にホステスと知り合って、喫茶店などで話すようになり、或る日の昼間、
土曜か日曜日だったと思われるが、彼女のアパートに誘われた。
寺の裏手にある墓地のそばの、崩れそうなアパートだった。
彼女は私の童貞を奪う積りだったらしく、私を色っぽく誘ってきた。
千擦りしか知らない私は、彼女に誘われるまま飛び掛っていった。
いったい彼女に何をしたかさえ判らず、憶えているのは一生懸命に腰を
使っていた事だけだった。それもすぐあえなく発射して自分を取り戻した時には、
童貞を卒業して初体験も終わっていた。
「やっぱり、私の想像どおりね。童貞だったの・・・ね」
彼女が笑いを浮かべてそう言った時、
私はホステスにバカにされた様に感じていた。
「高二になって未だに童貞なんて、あんた、よほどもてない男なのね」
そんな風に軽蔑された様に感じて、カーッと成ってしまった。
私は再びホステスに襲い掛かっていき、彼女を抑え付けて、身体を覆い
被せていった。そして彼女の膣の中で思い切り二度目の射精を行った。
私にとってホステスは始めての女であり、女体そのものであった。
そのために彼女には遊びであっても、私は夢中になってしまった。
学校帰りに彼女のアパートに立ち寄り遊んだりしていたが、三ヶ月もすると、
「私ばかりじゃ、愉しくないでしょう。早く彼女を作ったら・・・」
と、突然別れを宣告してきた。
夢中になっている私は、はいそうですか、と別れられる筈もない。
彼女のアパートをしつこく訪問したり、拒否されると後を尾かけたり、
行動の全てを知ろうとした。今で言うストーカーそのものに成ってしまっていた。
彼女は店が終わった後、客と連れ込み旅館に入っていった事もあった。
「あんた、あたしを尾行しているみたいね。
いい加減にしないと警察に突き出すわよ」
おこった彼女にそう言われて、私はその見幕に震え上がってしまった。
高校三年の夏休みに、私にも彼女が出来た。
他校の二年生で彼女も不良娘だった。喫茶店で知り合って、
公園の隅や神社の裏手で抱き合った。行為自体は短かった。
お互いにセックスの快感なんて少しも感じていない。飢えた私が迫ると、
彼女がしかたなしに身体を開く、といったかんじだった。
そんな彼女との付き合いも、翌年私が卒業すると、なくなってしまった。
わたしは以前から、高校を卒業したら両親の許から出たいと考えていた。
独立して、自分一人の生活をして自由にくらしてみたい、とも思っていた。
同時に、どうせ独立するのなら、日本の首都である東京へ行って、
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プロフィール
Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。
私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。
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