PV UU 現在の閲覧者数: /にほんブログ村 小説ブログ ロマンス小説へ
2ntブログ

異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

  1. スポンサー広告
  2. [ edit ]

忘れ得ぬ二人の女。其の一

◇覚醒した思い出
星空(天の川と白鳥座)
昔、晴れた日の東京の三多摩地区の夜空は、いつも満点の星空だった。
無数に煌く星々と月の輝きで、夜空はビロードのように滑らかな濃紺色。
天の川もはっきり見えて、家族団欒夕食中の家の中には、
星より近い明かりを求めて、クワガタやカブトムシが迷い込んで来たものだ。

夕食後は、誘い合わせた大人や子供達が三々五々に集い、
木々の樹液の香りが濃密に漂う小学校の土の校庭に向かう。

無料の夏休み納涼映画大会。
化け猫怪談映画で肝を冷やし、ターザンの雄叫びに心躍らせ、
白馬で駆ける鞍馬天狗の登場で、大人も子供も拍手喝采。
その布地のスクリーンに、興奮した子供達の懐中電灯の光輪が蛍のように飛び交い、
大人たちによく怒鳴られていたっけ・・・

「懐かしいですねえ・・・」
その呟くような女性の声に、浸っていた郷愁からふっと戻された私は、
気付かぬ間に横に立っている老婦人に視線を移した。

手入れの良い銀髪、微笑む顔の薄い化粧。淡い紺色縦縞のワンピースも長袖で、
小柄で上品な老婦人だった
「いやあ、まったく・・・」
私は曖昧に頷き、再び眺めていた頭上の映画看板に視線を戻した。

鞍馬天狗。拳銃を手に、白馬に跨る嵐寛十郎。その背後には杉作少年。
「アラカンさんの映画、お好きでしたの?」
アラカン。懐かしい響きの呼び名だ。鞍馬天狗を演じる嵐寛十郎は、
その名でしたしまれた剣劇スターだった。

「ええ、大ファンでしたねえ、この長い顔に黒頭巾が似合ってましたし、
 舞うような立ち回りにも何とも言えない風格があって格好良かった・・・
 もうこんな時代劇役者は出て来ないでしょうねえ・・・」
私はアラカン鞍馬天狗の、独特な含み声まで耳に甦らせながら、
後の方は呟く声で彼女の問いに答えた。

「ふふ、黒頭巾なんて懐かしい言葉・・・」彼女が微笑み、
「そういえば、怪傑黒頭巾の看板もありましたわよ」と、
立っている道路の背後を指さした。
「見ました、大友柳太郎。彼も好きなスターだったんです。あなたも・・・?」
「いえいえ、私は女の子でしたから、あまりチャンバラ映画の男優さんは・・・
 憧れていたのは女優さんの方ですわ」
 
老人と嫁
チャンバラ。これも懐かしい言葉だ。私は何か嬉しくなった。
「なるほど、すると、ええと・・・」と、往年の女優の名を思い浮かべようとした。
「原節子さん、高峰秀子さん、乙羽信子さんなんかはすきでしたわねえ・・・
 さっき東京物語の看板で原節子さんにお会いして、涙が滲みそうになったりして・・・
 いえ、映画の方はビデオで何回も観ているんですが、
 泥絵の具の絵看板が、とても懐かしくて・・・」
「わかります。こんな看板を見上げて、わくわく胸を弾ませながら、
 我々は映画館に飛び込んで行ったんですよね、昔は・・・」

私と老婦人は、ごく自然に肩を並べて、狭い舗装路を歩き出していた。

東京都青梅市。駅から五分ほどの商店街。入口には、懐旧心をそそる
昭和中期の玩具や生活用品が陳列された、レトロ博物館。
路を歩けば、店々の軒上や壁に掲げられた往年の洋画邦画の絵看板・・・。

そんな懐かしいイベントを催す町があると聞いて、電車の片道だけで約二時間。
ちょつとした小旅行の気分で来てみた私だが、予想以上に楽しめた。

木曜日の昼下がり。人通りも少なく、晴れた秋の空も広々として、
住む川崎の街より、はるかに青かった。空気も澄んでいて、
歩く道すがらの樹木や店頭に置かれた花々の香りすら、感じたやに思える。
子供の頃の渋谷の町のようだ。
「良い町ですねえ・・・」思わず声が出た。

微笑みながら頷いた老婦人が、大映の銭形平次の看板の前で足を止めた。
「長谷川一夫さん、日本一の美男子と呼ばれた男優さんでしたねえ・・・」
独り言のように呟いて、
「私の母親は歌舞伎が好きだったせいか、この方のファンでしたわ、
 見栄の切り方が歌舞伎役者のように凛々しいから、とか言いましてね、フフフ・・・」
老婦人は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

その横顔に応えて笑みを送った私は、何かハッとした。
彼女に対してデジャビュ、つまり、既視感があるような気がしたのだ。
Dr10
細い眼の睫毛は老女にしては長く、その眼差しや、整った鼻筋、赤い紅の小さな唇。
薄い白粉が塗られたふくよかな頬。
「失礼ですが、何処かで貴女と、前にお会いした事があるような気が・・・」
老婦人が私を見つめた。そして、笑みを消さずに、静かに首を振った。

「こんな町で出会うと、誰でもみんな、昔の知り合いに思えてしまいますわ。
 不思議な気持ちに成りますもの・・・」
老婦人はニッコリ笑い、
「私も先刻から、何かタイムカプセルに乗ってきたような気分でしたわ・・・」
と、優雅な仕草で頭を下げた。
「また、ご縁がありましたら・・・」

私は歩き去る老婦人を見送り、苦笑した。どうやら今の問いには、
年寄りの冷や水、軟派のセリフと勘違いされたようだ。
それにしても、タイムカプセルとは洒落ている。
確かに過去の世界に戻された様な気がする町だ。
私はもう一度、長谷川一夫の絵看板を眺めた。
なるほど、厚い白塗りの顔は歌舞伎役者のようだ・・・。

「あ・・・っ」私は思わず声を漏らした。
思い出したのだ。老婦人の名を、いや、似た顔の過去の女性の名を・・・。
小学校の同級生女子、横山千穂子。
家に戻った私はアルバムを繰り、小学校の卒業写真にルーペを当てた。

ルーペに拡大されて、網目になったモノクロ写真。居た。私が最後列で、
小さかった彼女は最前列。優等生だったから、教師の隣で無表情に澄ましている。
終戦八年後、私達が栄養不良のまま育った時代。彼女は瘠せていた。
色も黒かった。だが間違えない。この同級生少女に私は恋心を抱き、
さらに八年後、日本が高度成長に突入した二十歳の頃に再会して、
その初恋が歌舞伎座の事で潰えたのだ。

私は眼を閉じた。当然のようにもう一人、記憶の襞に埋もれていた女性の顔が
甦ってくる。名前も自然に浮かんできた。
増田澄子。ヒマワリのように大輪。華やかな顔立ち。グラマーな肢体。
若い私が熱烈に恋した女性だった。
青梅の老婦人によって、覚醒された思い出の女性二人。

  1. 銀座の恋の物語
  2. / trackback:0
  3. / comment:0
  4. [ edit ]


comment


 管理者にだけ表示を許可する
 

trackback


プロフィール

アヤメ草

Author:アヤメ草
FC2ブログへようこそ!管理人の
アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

カレンダー

04 | 2024/05 | 06
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

フリーエリア

検索フォーム

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

QRコード

QR

ブロとも申請フォーム

« 2024 05  »
Su Mo Tu We Th Fr Sa
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


.