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異性への恋心を大切にして生きてきた昭和の時代を振り返ってみましょう。

思い出される昭和のあの日あの頃

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故郷岩手の女。其の二

~夫婦とは何?~
岩手の女2-1
「やっぱり、お前が来たか。来ると思っていたよ」
社長がのっそりと応接間に入って来て、私の正面の椅子に座った。
「辞令の件ですが・・・」
「言わなくても用件は分かっている。あれは役員会(社長一族)で決まった事だる
 今後のためにも訂正する心積もりはない」
「大人しく従えと・・・」
「その通りだ」
「考え直していただけませんか。山中・木田それに斉藤・西尾、みんな会社の一線で
 なりふり構わず働いて来た者ばかりです。それを秋田の倉庫担当とは、
 辞表を出せと言うに等しいことです」
「見解の相違だ。役員会では充分検討して決めた。後はお前達の意志で、
 二つに一つを選ぶんだな。一週間だけ時間をやる」

私の全身の血は、あまりにも傲慢な言葉に煮えくり返っていた。
しかし同時に会社は最早一人立ちし、辞令書に載せられた私たちのほうが、
時の流れに乗り切れずに、お荷物的な者になった事を、イヤでも認めざるを得なかった。

人は石垣、人は城と、其の時まで私は信じていたのだが・・・
何時しか怒りを通り越し、空虚な気持ちのまま私は社長宅を辞した。
私の肝は其の時に、はっきり決まった。
家を買ったばかりの西尾と、山中、斉藤の三名は辞令通り、
秋田支社に出向することを受け入れた。

リストラ策の一環としての理不尽な転勤命令を蹴って辞表を叩きつけ、
妻の貴美子に辞表を出した事を切り出したのだった
「あら、そうなの・・・」
貴美子は驚くほどアッサリと、それを受け入れてくれた。
むしろ、それを待って居たと言ってもいい。

「少し早いけど定年退職だと思えばいいじゃない。
 ねぇ、あなた・・・定年離婚が流行してたってこと知ってました?」
「何だい、それ?」
「定年になる頃は、子供だって一人立ちしているでしょ。
 で、妻はそれまで家に縛りつけられていた分、退職金を慰謝料代わりに頂いて、
 第三の独身生活をエンジョイするの。仕事人間の貴方は、
 そんな流行も知らなかったでしょうけど」
「流行って、お前・・・」
「リストラ離婚よ。これからは収入が無くなる訳だし、一人ずつ生きていく方がいいのよ。
 幸い子供も立派に育ったし、全ての財産を処分して」
「処分って?冗談だろう」
「だって退職金っていっても、リストラじゃそれほど期待出来ないでしょう。
 それに離婚するんだもの、この家は必要ないわ。
 それともあなた、この広い家にたったお一人で住んでみます?」
「ずっと、そんな事を考えていたのか?」
「そうよ。一人で放って置かれれば、そんなことを考えているしかないものね。
 ねっ、いい機会だと思わない?」

 
岩手の女2-2
貴美子の言葉には気負いは全く無かった。
本当に其れだけを考えて居たのだろう、私は返す言葉も見つからず、
黙って聞くだけだった。

私と貴美子が結婚して、二十五年が経っていた。その間、私は、
仕事にかまけて妻の貴美子を放っておいたのは事実だった。

長男が生まれた時にも、病院に駆けつけて、初めて子供と体面したのは、
三日も経ってからだったし、二人目の子供を流産しかけた時にも、
出張で東京に居なかったため、側に居て元気付けてあげる事も出来なかった。
もっとも、そんな事はサラリーマンをしていれば、ほとんどの者が私と同じ様な
境遇に有ったはずだ。

その一つ一つが貴美子にとって見れば、一番側に居て欲しいと思った大切な時に、
私が居たためしがなかったことが問題なのだった。
「別れて、どうするの?」
「喫茶店を開こうと思って、結婚する前、二人でよく行ってた「バルーン」って
 喫茶店を覚えてる。オールデーズの曲が一日中流れていた喫茶店よ」
「ああ、あの喫茶店」
「そう、あんなムードのあるお店、私もやってみたいの」
「夢があったんだね」
「夢じゃないわ、ずっと研究してたもの。でも、貴方は私が淹れたコーヒーを、
 一度だって美味しいって言って呉れた事が無かったわね」
「・・・」
「貴方には、コーヒーなんて如何でも良い事だったでしょうけど、
 こんな話を今更しても、しょうがないわね」

貴美子は立ち上がると、台所に行ってコーヒーを淹れて戻って来た。
貴美子は毎朝、コーヒーを淹れてくれていた。日常的な習慣の中で、
私はそのコーヒーの味の変化にも気付かないでいた。

言われて初めて気付いた時、修復できないほど気持ちは離れていたのである。

それから間もなく、私達は離婚した。貴美子は念願だった喫茶店の開業に向けて、
順調に滑り出した。目的を持った人間の明るさと、力強さがそこには満ちていた。
むろん、それは貴美子が本質的に持っていたもので、
それまで私が気がつかないで居ただけなのかも知れない。

私は貴美子が喫茶店を開店したのを見届けた後、初めて上京した時と同じ様に、
トランク一つを持って東京を離れた。
向かった先は、生まれ育った岩手県の半農半漁の小さな町だった。
  1. 再出発
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アヤメ草

Author:アヤメ草
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アヤメ草(万屋太郎)です。
演歌の作詞や官能小説書きを趣味とする、
今年72歳に成る“色ボケ爺さん”です。
何時も私のブログを見て頂き
有難う御座います。

私の別ブログ
“詩(うた)と小説で描く「愛の世界」”
も開設から八年目に入り、
多くの作品を公開してまいりました。
此処にはその中から選んだ
昭和時代の懐かしい「あの日あの頃」
の作品をまとめて見ました。

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